第18話 決意を胸に


激しい死闘を繰り広げた試験が終わり、洞窟内には静まり返っていた。



大佐の問いに対し、ルカはすぐには答えなかった。



重く深い沈黙が三人を包む。



実際には5分程度の沈黙だったと思われるが、その重たい沈黙は永遠にも感じられた。



「私には両親がいません。」



ルカが重く閉ざされた沈黙の扉を開けるかのごとく、話し出した。



小さくか細い声だったが、口調は落ち着いていた。



「私の両親は、ダークエメラルドとの魔法大戦争で戦死しました。それも幼かった私の目の前で焼き殺されました。」



大佐はルカの両親については、調査書で確認して知っていたが、ミーナは初めて聞く話だったので大変な衝撃だった。



ミーナはなにか声を掛けようと言葉を探すが、掛ける言葉は見つからなかった。




「それはひどくむごい殺され方をしました。私は母の作った結界で守られたので、死ぬ事はなかったですが、心には大きな傷が残りました。」



ルカは淡々と自分の話を続けた。

感情を動かす事なく落ち着いて話し続けた。



「目の前で私の大好きだった人を亡くしたその傷は未だ癒えることはありません。だから…同じような状況が起こるとあの時の光景がフラッシュバックして、鼓動が早くなり、周りが見えなくなって、暴走してしまうんです。」



ルカはここまで話すと一呼吸入れる。



大佐は表情を変える事なく、ルカの方を真っ直ぐに見ていた。




「なるほど。では貴様の先ほどの暴走は両親の死がフラッシュバックして、暴走したというわけか。」



「そうです。大切な仲間ミーナちゃん理不尽に痛めつけられたのを見て、あの光景が蘇ったんだと思います。」



大佐はその答えにはなにも答えず、一度だけ頷いた。



それを確認してから、ルカは再度話を進める。



「先程の試験で魔獣たちに攻撃を仕掛けなかったのも、無意味に人や動物を痛めつけたくなかったからです。

立場や理由はどうあれ、彼らが痛めつけられて悲しむ人がいるんじゃないか?そう思うと攻撃をする事が出来なくなってしまうんです。」



大佐は確信した。



こいつは兵士には向かない。

命のやり取りをする主戦場で、このような甘い考えの奴がいたら自分真木瀬だけでなく他の隊員も殺すことになる。



隊長として、ルカは除隊させざるを得ない。



「真木瀬…最後に質問だ。好き嫌いはともかく、仕事としてダークエメラルドの兵士を殺す事はできるか?」



ルカは黙っていた。



また再び重たい沈黙が三人を包む。



次の発言でルカの今後の処遇が決まる。



それを三人とも分かっていた。



大佐は先程からまったく表情を変えず、ルカの答えを待つ。



ミーナはこの空気に耐えきれずあわあわしていた。



そしてルカが答えを出す。



「私は…私は闘うことが嫌いです。魔女になったのも闘うためじゃなく、もっと不順な理由だし。だから会社で事務処理しながら人間界に遊びに行ければいいやーって思ってます。でも…」



ルカは言葉を切り、深い呼吸をする。



小さく微かな呼吸音のはずなのに、洞窟の中でそれは大きく響き渡った。



「だけど…私はこの世界が大好きなんです。お父さんとお母さんが愛したこの世界。そして、大切な仲間がいるこの世界を守りたいんです。この世界の平和を守るためなら私、闘いたい!そう思います!」



凛とした態度で決意を語るルカの姿に、大佐は驚き、すぐに言葉を発せなかった。



「お前の気持ちは分かった。実戦で使うかどうかは今後の貴様の働き次第だ。今日はこれで解散だ。早く帰って体を休めろ。いいな?」



「はいっ!ありがとうございます!」



ルカの声にいつもの明るさが戻った。



「ルカちゃん、わたし感動しちゃった!」



ミーナは緊張の糸が切れ、ホッとした様子ででルカに抱きつく。



「ちょっとミーナちゃん!どうしちゃったのー!」



ルカも笑顔になる。



けれど心の中はこれからの闘いへの覚悟で煮えたぎっていた。



☆ ☆ ☆



家に帰るとルカは早速、灰田に今日あったことをラインした。



ルカは覚悟を決めたといっても、不安な気持ちも大きかった。



その気持ちを誰かに話したい。



だから今日のラインはいつも以上に長文で、いつも以上に詳細に文章を書いた。



「(急に長文のライン送ったらビックリするよな〜。引かれないかな〜…)」



先程の不安とは別の不安がルカに押し寄せる。



そんな折に、買い物に出ていたメドルサが帰ってくる。



メドルサの顔を見ると安心する。



これまでの不安が嘘のように吹っ飛んでいく。



メドルサにも今日あったことを、事細かに伝える。



メドルサは優しい言葉を掛けてくれる。



「じゃあこれから頑張るルカの為に、私は料理の腕を振るうとするかね。」



夕食はルカの好きなカレーだった。



メドルサは辛いものが苦手なルカの為に、カレーはいつも甘口で作ってくれる。



そんな優しさの詰まったカレーを食べていると、ルカのスマホに一通のラインが届いた。



続く…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る