第17話 豹変


魔獣がミーナに襲いかかる。



全長は5mを超え、大きい翼と刃物のように尖った爪と牙そして顔は凶暴さが溢れていた。



ルカは先程よりも広範囲にシールドを張り、魔獣の突進から自分とミーナを守る。



魔獣は翼を広げて、上空へと飛び立つ。



魔獣は上空からの攻撃に方針を転換したようだった。



角度のある魔獣の攻撃に、遂にルカのシールドは破られ、ミーナの右肩にダメージを与える。



「ミーナちゃん、大丈夫!?」



「大丈夫!でもこのままじゃ引き下がれないよ!」



ミーナはそう言うと魔獣に向かって走っていく。



ミーナは遠距離魔法を得意とした兵士であり、近接戦は苦手である。



ルカはそのことを知っていた。



「ミーナちゃん、やめて、危ないっ」



その声は届かない。



ミーナは魔獣の至近距離まで行き、魔法を唱える。



しかしミーナが魔法を使うよりも、魔獣の攻撃のが早かった。



魔獣は空中から急降下して、鋭い牙でミーナの首筋のあたりに噛み付く。



ミーナは悲鳴を上げその場に倒れこむ。



体からは大量の血が流れ出る。



「大佐っ!もうやめてください!!こんなの試験じゃないです!!」



ルカは泣き叫び、大佐に試験の中止を求める。



だがベイルート大佐は何も言葉を発しない。

それどころか表情ひとつ変えなかった。



泣き叫ぶルカを無視して、魔獣は悠然と上空を飛び回っていた。



一呼吸おくと魔獣は、瀕死のミーナに向けて再度攻撃を仕掛けようとする。



「なんで…」



「…こんなのおかしいよ。」



ルカは怒りと悲しみが入り混じった声で呟く。



そして魔法詠唱を行う。



「グリタンド!」



すると洞窟内にとてつもない音がこだまする。



それは耳をつんざくような大音量で不快なものだった。



黒板を爪で引っ掻くようなそんな悪魔的な音が大音量で響き渡る。



大佐は異変に即座に気付き、魔法で耳を体に埋め込み対策を取る。



しかし魔獣は対策を講じることが出来ず、モロにその攻撃を受ける。



魔獣はダメージを受け、動くことが出来なくなってしまった。



その隙に魔法で大砲を出現させて、弾を詰めていく。



そして大砲から弾が放たれる。



魔獣は耳の痛みから身動きが取れず、その弾がマトモに体に当たり、そして貫通する。



更にもう一発、今度は顔面を目掛けて弾を放つ。



魔獣は交そう《かわ》と体を動かす。



しかしこの大砲は普通の大砲ではない。



弾一つ一つに魔力が込められているため、避けようとすればその方向に軌道を変えて飛んで行く。



弾は魔獣の顔面に命中し、顔は粉々になり、吹っ飛び、見るに耐えない状態にまでなってしまった。



それでもルカは攻撃を辞めない。



鬼気迫る表情で更に魔法を唱えようとする。



「真木瀬終わりだ。試験は終了だ。」



大佐がそう告げるもルカの耳には入らない。



ルカは魔獣から視線を外さず魔法を唱える。



大佐は急いでルカに魔法を掛ける。



「エントゥメティミエント」



ルカの全身を痺れさせる魔法を唱えるが、ルカは反対魔法を唱えて大佐の魔法を無効化する。



大佐は自分の魔法が無効化されたことに驚くが、冷静に次の一手を考える。



そして…



「ボラール」



超大型の魔獣はその魔法とともに姿を消した。



ルカの大砲が放たれるコンマ零何秒…ギリギリのところで対象の魔獣を消すことが出来た。



「なんとか間に合ったか…」



大佐はホッと胸をなでおろす。



「なんで…なんでミーナちゃんが…どうして…」



ルカは泣きながら静かに呟く。



「真木瀬いいか?ミーナは死んでいない。

というかこいつはミーナじゃない。」



ルカは大佐の言葉に耳を貸さない。



ただ泣き続けるだけだった。



「こいつは私が作り出した残像のようなものだ。消すこともできる。」



「ボラール!」



ルカの前で倒れていたミーナ(ミーナと思われる兵士)は姿を消した。



「ほらな?本物はいまベースキャンプにいるはずだ。自分の目で確かめるんだな。」



大佐はそう静かにルカに告げる。



ルカはそれでも納得しなかった。



大佐がどうしたもんかと考えていると、ある気配に気付く。



それは洞窟の外でこちらの様子を伺っている人間の気配だった。



大佐はくるりと向きを変えて、洞窟の外に出るとそこには洞窟内の様子を心配そうに見つめるミーナの姿があった。



「貴様ここでなにをして…いや…都合が良い。こっちへ来い。」



大佐はミーナを連れて、試験場に戻ってくる。



「ルカちゃん…?」



ミーナの言葉にルカはようやっと顔を上げる。



「ミーナちゃん…?どうして…」



予期せぬ出来事に言葉が詰まる。



「私外から見てたけど、ルカちゃん凄かったよ!あたしなんかより何倍も強いんだもん、びっくりしちゃった」



ミーナは何事もなかったかのように、少しはしゃいだ様子で、ルカに感想を話す。



「だってミーナちゃんは…え…?」



ルカは涙を拭いながら、ミーナの方を見る。

そしてそのあとに大佐の方に視線を移す。



「だから…さっきから何回も言ってるだろうが。そこに倒れてたミーナは私が魔法で作り出した幻影だ。本物は見て分かる通り無傷だ。」



大佐の説明にルカはようやっと状況を理解して、泣くことをやめた。



「でも…どうしてミーナちゃんの残像を出したりしたんですか?この試験は一対一の対戦を見るって言ってたのに…」



ルカは不満そうに大佐を問いただす。



「それは、お前が手を抜いていたからだ。

だからガッフェ峠での闘いと同じ状況を作ってお前の本気を見る為にミーナの幻影を出した。それだけだ。」



「それならそうと言ってくれれば良かったのに〜」



ルカはすっかり泣き止み、落ち着きを取り戻していた。



「しかしどうしてあそこまで豹変したんだ?仲間がやられたとしてもあそこまで急に態度が変わるか?」



大佐はこれまで思っていた疑問をルカにぶつける。



ルカはその理由と自分の過去についてぽつりぽつりと語り出した。



続く…

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