第15話 はじめてのたたかい


ルカは、魔法学校では優等生だった。


勉強はもちろん、実戦演習もトップの成績で通過していた。


学校の先生にも100年に一度の天才とまで褒められたこともある。


しかし、ルカは本当の戦闘を経験したことがなかった。


得体の知れぬ魔獣に対し、どんな魔法を使えば良いのかわからない。


しかしルカに考えている時間はなかった。


魔獣の鋭い爪が、同僚のミーナの頭部を目掛けて振り下ろされようとしていた。


ルカは急いで魔法を唱える。


上手くいくか…そんな事を考えてる余裕はない。とにかくやるしかない。


「フリーーズ!」


ルカは大声で魔法を唱え、魔獣の腕を指差す。


ルカの指差した周辺の空気が一瞬で冷たくなる。


そして魔獣の腕は瞬時に凍ってしまい、自由に動かすことが出来なくなってしまった。


恐怖で目を伏せていたミーナが恐る恐る目を開くと、予想していなかった目の前の光景に驚く。


ルカは安心する事なく、新たな魔法を唱える。


「エアーバレット!!」


ルカは指でピストルの形を作り、魔獣に向ける。


空気の塊が、銃弾のようにルカの指から弾け飛ぶ。


魔獣の腹に命中し、5つの風穴が開く。


魔獣は大きな悲鳴を上げ、仰向けに倒れる。


ルカは自分の攻撃が相手に効果があった事を確信し、また、ミーナの命が守れた事に安堵する。


その一瞬の隙を突き、魔獣は地中へと潜り込む。


「ルカちゃん、逃げられちゃう!どうしよう!」


ミーナは恐怖でテンパっていた。

しかしルカは冷静だった。


「そうはさせないですよ、ミーナ先輩!」


ルカは三度目の魔法詠唱を行う。


「エアーディグアウト!」


魔獣が逃げたと思われる地面がえぐれていき、どんどん地下へと掘られていく。


それは巨大なドリルを使い高速で掘り進めていくかのごとく。


100mほど掘った頃、地中から細い声で悲鳴が聞こえた。


「ビンゴ!」


ルカはそう言って、指を鳴らす。


そして魔獣捕獲用のロープに魔法をかけ、その悲鳴があったところへと垂らしていく。


ロープを引き上げると戦闘不能になった巨大な魔獣が顔を出す。


「はぁー、これでようやく終わりだね!」


ルカは屈託のない笑顔で、先輩であるミーナに微笑みかける。


「ルカちゃん、すごい!もうダメかと思ったよ。ほんとありがとね!」


ミーナは先ほどの命がけの攻防に疲弊しながら、ルカに感謝を告げる。


「そうだ。ベッカー少佐に報告をしないと。」


そう言うとミーナは空に三発ほど、花火を打ち上げる。


それを見た少佐とその他の兵士達がルカ達の元へ戻ってくる。


「ミーナ隊員、ご苦労だったな。素晴らしい活躍だ。ベイルート大佐にもしっかりと報告をしておく。」


少佐はミーナの方を向き、労をねぎらう。


「い、いえ…これは私ではなく、ルカちゃ…いや真木瀬隊員が全てやった事です。私は恥ずかしながら何も出来ませんでした。」


ミーナは正直にそう伝える。


「なるほどな…真木瀬隊員ご苦労。では皆のもの引き上げるぞ!」


少佐の一声で調査部隊は、拠点ベースキャンプへともどる。


ルカとしては物足りなかった。


みんなにもっと褒めてもらい、仲間だと認識して欲しかった。


しかし、行きと同じで皆一様に無言のまま、とりたててルカに話し掛ける者もいなかった。


あれだけ頑張ったのになぁ…


そう思いながら、死闘を繰り広げたガッフェ峠の方を振り返る。


すると一瞬、小さな光のようなものが光った…気がした。


なんだったんだろうと、その後もガッフェ峠の方を注意深く見るが、それ以降光が見えることはなかった。


調査部隊の列を見出すことも出来ず、ルカは振り返るのをやめ前に視線を戻した。


デストラウト山脈の麓にある拠点ベースキャンプに戻ると、すぐにベッカー少佐がベイルート大佐に報告をする。


他の隊員が連れ帰った魔獣三頭を大佐に見せる。


「こいつらを解剖しろ。恐らくガッフェ峠付近の空間間にいた門番ゲートマンを食ってるはずだ。」


異空間を行き来するのには、門番ゲートマンの許可が必要だ。


無論、ダークエメラルドの魔獣が移動しようと思えば、ゲートマンに止められる。


だから邪魔ものであるゲートマンを倒し、この世界に移動してきた。

そう大佐は推察したのだった。


「(しかし魔獣が単体でこの世界に入ったとは考えづらい…指揮を執る者がいた可能性もあるのでは…)」


「(しかし、真木瀬…悪くないかもしれないな…今後は奴を主戦で使っていくか…)」


大佐は、先ほどの報告から光と闇を見出していた。


続く…

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