第13話 入隊
ルカちゃんのデートのあと、僕は真凛ちゃんにラインしていた。
なぜ彼女候補のデートの後に別の彼女候補にラインしているのかよく分からないが。
ただ真凛ちゃんがやたらとその話を聞きたがるから仕方ない。
『なるほど。デートはそれなりに盛り上がったのですね?』
『そうですね!今回は魔界トーク禁止でデートしてみたので、結構うまく行った気がします。』
『1つ気になったので、失礼を承知で言わせていただきますと…
魔界トークを話している時、彼女は楽しそうな顔をするんですよね?
それを禁止するのは灰田さんのエゴなのではないでしょうか?』
ストレートな言葉が僕の胸に突き刺さる。
『たしかに、そうですね…
しかし、このままでは二人の進展が…』
『二人の進展のためにはまず、灰田さんがルカさんを受け入れることが先決かと思います。
ルカさんが好きなことを受け入れられないなら、交際すべきではないのではないでしょうか?ルカさんは灰田さんのオモチャじゃありませんよ?』
ど正論すぎて、返す言葉が見当たらない。
確かにその通りだな。
ルカちゃんの別れ際の悲しい顔。
あれはいま真凛ちゃんが指摘していることだったんだな。
遅すぎる後悔に自分でも情けなくなる。
それにしても…今日の真凛ちゃんはなんとなくイライラしているな。
言葉に棘がある気がする…
楽しかったはずのデートだったが、思い返せば自分だけが楽しんでいたような気がする。
僕はスマホを置いてベッドに倒れこんだ。
色々考えなきゃいけないはずなのに、目を閉じるとすぐに眠気がやってきた。
今日は何も考えずもう寝よう…
そう思っていると、スマホの着信音が鳴る。
まずい…真凛ちゃんからのトドメのラインか…
恐る恐るスマホを覗くと、ルカちゃんからのラインだった。
『今日は水族館とお好み焼き屋さん連れてってくれてありがとう!
とーっても楽しかったよ!
灰田くんと一緒にいると一日が一瞬で終わっちゃう気がする!
また近いうちに遊びに行こうねっ!
あ!キーホルダーちゃんと付けてね!』
ラインと一緒に写真が添付されていた。
水族館の前で二人で撮った写真だった。
僕は胸が締め付けられる思いだった。
僕もルカちゃんに返信を返す。
魔界の話を禁じてしまったことも謝罪した。
☆ ☆ ☆
ー翌朝、魔界にてー
「じゃあ行ってくるね、メドルサ!」
ルカは異動先であるダークエメラルド方面隊の入隊初日を迎えていた。
真新しい軍服を身に纏い、家の扉を開ける。
「気をつけてね。どうか無理だけはしないようにね。」
メドルサは心配で居ても立っても居られない様子だった。
「無理をしないとやってけないよー。
でも大丈夫!ちゃんと帰ってくるから!」
そう言ってルカは異動先へと向かった。
ダークエメラルド方面隊の拠点は、魔法界でも外れのデストラウト山脈の麓にある。
ルカは二時間ほど空を飛びようやく辿り着いた。
少し道に迷ったが、なんとか知らされていた時刻には間に合いそうだ。
拠点に到着すると、既にダークエメラルド方面隊の全員が到着していた。
その中には隊長であるベイルート大佐もいる。
「おはようございますっ!」
ルカは元気に挨拶をする。
しかし隊員たちは誰も返事をしてくれない。
どうしよう…と困惑しているルカの元へベイルート大佐が近寄ってくる。
私を指名してくれたベイルート大佐だ。
新聞なんかでも度々名前が上がる有名人。
ルカはキラキラした目でベイルート大佐の方を見て、そして見よう見まねの敬礼をする。
きっと今日は初日だから歓迎会とかやってくれるのかな?そんな事を考えにやけてしまうルカ。
しかしルカの脆く儚い幻想はすぐに消えて無くなる。
ベイルート大佐はいきなり、ルカの顔を殴りつける。
「3秒の遅刻だ。ここは戦場だぞ?分かっているのか?」
ベイルート大佐の怒号が鳴り響く。
「すみません、でも少し道に迷ってしまって…」
ルカの弁解も虚しく、二発目の拳がルカの腹にめり込む。
「人手不足とはいえ、お前みたい小娘を寄越してくるとは…
足を引っ張るやつは、邪魔なだけだ。
さっさと消え失せろ。」
ベイルート大佐はそう言うと踵を返して、隊員たちの方へと向かっていく。
「いいか、お前ら?ここは戦場だ。油断したら死ぬと思え!
お前らの油断でこの世界が滅びるんだ!
それを胸に刻み込めっ!」
ベイルート大佐の言葉に隊員たちはみな足並みを揃った綺麗な敬礼をする。
ルカは何テンポか遅れながら、不恰好な敬礼をする。
隊員を鼓舞する隊長の元へ、一人の隊員が近寄っていく。
「大佐!ガッフェ峠でダークエメラルドの偵察隊と思われる魔獣が三体目撃されました。」
屈強な隊員の一人がそう告げる。
「分かった。では本隊から10名ほどで状況を調査せよ。指揮はお前が取れ。」
指揮をとることとなったベッカー少佐が遠征に行くメンバーを選び始める。
半分ほどのメンバーが決まったところで、ルカが何を思ったのか口を開く。
「大佐、私も連れて行ってください!
先程の汚名を返上したいのです!」
周りが静かになる。
そしてたっぷりと時間を取った静寂を、大佐の怒号が切り裂く。
「貴様のような奴の汚名など知ったことではない!貴様に何が出来ると言うのだ!
足を引っ張って隊の規律を乱すだけだ。
貴様は雑用でもやっていればいい!」
大佐のものすごい剣幕に物怖じする事なく、ルカは食い下がる。
「お言葉ですが、大佐。
私もここに来たからには一人の兵士です。
この世界の秩序のために、戦わなくてはなりません!」
ルカはあれだけ殴られたのにも関わらず、怯むことなく真っ直ぐにベイルート大佐を見つめ続ける。
「ほう…まあ使えない兵士をいつまでも置いとくより、ここで使えるかどうか判断できた方が都合が良いな。試めしてやろう。
少佐、こいつも連れて行け!」
大佐の言葉を聞き、隊員たちに動揺が走る。
しかし指揮を任されたベッカー少佐だけは冷静だった。
「よし、それでは真木瀬隊員含めた10名でガッフェ峠へ向かう。皆準備はいいな?」
続く…
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