第12話 粉もんラプソディ

水族館を出た僕らは、公園のベンチに座りながら先ほどの水族館の感想などを語り合っていた。



ルカちゃんは宝物でも見つけたかのように、大事そうにチンアナゴのキーホルダーを眺めていた。



「そろそろ日も落ちて来ましたし、ご飯でも食べに行きましょうか?」



「そうだねー!そういえばお腹減ってきたかもっ!」



「何か食べたいものとかあります?」




「んー…灰田さんが食べたいものならなんでも!」




ルカちゃんは僕と会話をしながら、キーホルダーを眺めていた。



さて、困った。

行き慣れていない土地で調査不足のため、この辺のお洒落なレストランを調べていなかった。




僕は水族館の事で頭いっぱいでその後のことをおざなりにしてしまっていた。



「…この辺だとあまりお洒落なお店とか見当たらないですねー」



下町のため、小洒落た料理屋がサッと見つかるわけもない。



「全然お洒落じゃなくてもいいですよ!美味しいお店だったらなんでも大丈夫っ!」



あなたは女神か…



「じゃあとりあえずこの辺歩きながら良さげな店あったら入りましょうか!」



そう言って僕らは商店街の方へと歩き出した。



飲食店が多く立ち並んではいるが、居酒屋なんかが多くかなり騒がしかった。



この辺は違うなー。

いっそ都心の方まで移動して、お洒落なお店を探すか。

そう思っていた矢先だった。



「あ!このお店いい匂いする。もんじゃ焼き?って書いてあるよー。美味しそう!」



そこは常連さんしか来ないような小さく寂れたお好み焼き屋だった。



「え?こんなとこでいいの?もっとお洒落なイタリアンとか…」



「全然!むしろこういうとこでご飯食べてみたいって思ってた!」



僕は驚いていた。

僕が毎週定期購読している男性向けのモテる技術を紹介している雑誌には、デートはイタリアンやフレンチなどのお店以外は行ってはならないと書いてあった。



しかし女性の方からお好み焼き屋を提示してきた場合は…



偏った情報に惑わされ困惑している僕を他所に、ルカちゃんは店のドアをすでに開けていた。



僕は仕方なくそれに続く。


まあそうだな…これはデートじゃない。

友達とご飯に行くだけの話だ。

危なかった。天真爛漫な笑顔を見せるルカちゃんにまた簡単に惚れかけていた。

これじゃあ前と同じだ。

冷静に冷静に。



気持ちを切り替え僕はお好み焼き屋に入店した。



「なんかいろーんな種類があるよ!

チーズとかキムチとかもあるんだ、どれも美味しそう!」



メニューを見ているだけなのにルカちゃんは目を輝かせていた。



ルカちゃんはお好み焼きを食べたことがなかったようで、定員さんが焼いてくれるのを興奮しながら見ていた。

焼いてくれた熟練のおじさんも少し照れてしまうほど、ルカちゃんははしゃいでいた。



お好み焼きが出来上がると、ルカちゃんは会話など一切せず黙々とお好み焼きを食べていた。



「なにこれ、ほんとに美味しいね!初めて食べたけど、フワフワだけどジューシーですごい!」



ルカちゃんは初めて食べる目の前の料理に子供のように喜んでいた。



「そういえば…ルカちゃんは、水族館とか映画館とかお好み焼き初めてって言ってたけど、もしかして海外で暮らしてたりとかする?」



僕は家でずっと考えていた質問を口にする。



日本で生まれ育った人であれば、これらを経験しないで育つことは考え難い。



そして魔界の話ももしかしたら日本語を覚えるのに、学んだなにかのアニメの1つなのかもしれない。



ぼくはそのこじつけのような無理矢理な理論を構築していた。



しかしぼくが求める答えは返ってこなかった。



「んー、外国というか異世界出身だからね。そもそもそういう文化がないんだ。」



ああ…また魔界ルートに入ってしまった。



「そっか…」



僕はがっかりしながら、まだ残していたお好み焼きに口をつける。



「灰田くん、ごめんね。

う受け入れてくれてるのかと思ってたからあまり気にしてなかったけど、ちゃんと私のこととか色々話さないとだよね…」



ルカちゃんはさっきまでの様子とは異なり、哀しそうな声で僕にそう告げる。



「え?どうしたの?なんの話?」




僕は困惑した。




「でもね…まだちょっと時間が欲しいの。だからそれまではこのままでいさせて?」




憂いを帯びた声で静かに語りかける。




「わかった。それまで僕はなに聞かないね。」




困惑しながらも僕はそう答えることで精一杯だった。




「ありがとっ。」



少しだけ笑顔になりながら、ルカちゃんはそう言った。



先ほどまでの屈託のない笑顔とは違う、憂いを帯びた笑顔だった。



やはり僕はまだまだルカちゃんの事を知らなすぎている。



もっと色々知りたい。



僕の心は少しだけ変化し始めていた。



続く

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