第10話 おふくろの味
「メドルサー、聞いてー!私ダークエメラルド方面隊に異動なんだってー」
ルカは家に帰ってすぐ、使い魔のメドルサに今日のことを報告した。
「そうか…それはまた大変なところに異動になったもんだね」
「そうなのー、レイナちゃんから聞いたけど、いますごく物騒なとこなんだって?」
他人事のように語るルカ。
「そうみたいだね…まあでも、うちの兵士も被害は受けてるが、同時にダークエメラルド側も随分と被害を受けてるって話じゃないか。」
メドルサはルカを不安にさせまいとフォローをする。
ルカはその気遣いに気付き、強がってしまう。
「そうなんだ…でもね、私不安じゃないよ!
むしろ楽しみって感じなんだっ!」
ルカは魔法詠唱においてはかなり高度なスキルを持っている。
しかし平和的な性格のため、闘いは割と不得手だった。
それなのに楽しみというのは何故か。
それはルカの母親と同じ兵士という立場になれた事なのか。
両親を殺した憎きダークエメラルドと闘えるからなのか…
それは分からない。
しかしメドルサはあえてその事を聞こうとはしなかった。
「あっ!そういえば、メドルサー!
灰田さんから全然連絡来ないんだけどこのスマホ壊れてないー!?」
スマホを突き出しながら、ルカは言った。
「いいや。壊れてないよ。灰田さんも人間界で色々と忙しいんじゃないかい?」
仕事より恋か。ルカも20の齢になるが、まだまだ10代の女の子だな。
そんな女の子が戦地へ向かわなければならないのか。
メドルサはその不条理さに怒りと不安を覚える。
「なんで返信くれないんだろうなあー。
あたしなにか嫌われるようなことしたかな…
どうしよう、早く会いたいなあ」
ルカは物憂げな表情を浮かべ、スマホをずっと眺めている。
「やっぱり魔女と人間が付き合えるわけないのかな。もしかしたら人間界で良い人と出会っていい感じになったりしてるのかも…」
ルカは自分で言った言葉を聞いて、泣きそうな顔になってしまう。
「返信来ないって言ってもまだ1日だろ?
昨日はたまたま寝ちゃってただけとかじゃないのかい?」
「違うもん!灰田さんは必ず夜にはラインしてくれてたんだよ!アプリやってた時からずーっと!なのに返してくれないってことはなんかあったんだよ…」
ついにルカの目から真珠のように輝く一粒の涙がこぼれ落ちる。
「まだ夜も始まったばかりじゃないか。ご飯でも食べながら待ってりゃきっと来るさ。
さあご飯食べよう!」
メドルサは少しでもルカの不安を緩和したかった。
こんな気持ちで戦地に向かえば確実に大怪我をする。
メドルサとしては、本当は灰田のことを忘れて欲しかったがそれが出来ないならせめてもの不安を消す。
それがメドルサの一番の仕事だと思った。
「うーん、食欲ないからご飯いらないー。
今日は疲れたから寝るね…」
霞むような声でそう呟き、ルカは寝室へと姿を消した。
どうしたもんかね…
こう呟きながら、夕食を作り始める。
メドルサは魔法が使えない。
なので手作りで料理を作るしかなかった。
しかしルカは、手作りってなんか人間っぽい!と言ってメドルサの料理を喜んで食べてくれた。
メドルサはそれがすごく嬉しかった。
使い魔と魔女は基本的に主従関係がある。
しかしメドルサとルカの場合は、親子のようなそんな関係性だった。
だからなのかもしれない。
メドルサが願うのはたった1つ、ルカの幸せだけだった。
それゆえに今回の異動にはメドルサもひどく心を痛めた。
自分には魔法が使えない。
もし戦いになれば、ルカの手助けはなにも出来ない。
自分が傷付くことはいいが、ルカが自分の力不足で傷付くことだけは耐え難かった。
そうだ。これを機に使い魔を変更するのも手だな。
強い魔獣やら回復出来る使い魔ならあたしよりきっと役にたつだろう。
そうメドルサは思い立ち、ルカの寝室に入ろうとする。
すると、中から物凄い勢いでルカが飛び出して来る。
「ねぇ!メドルサ!来たよ!遂に来たよー!!」
「なにが来たんだい?」
「ラインだよ!!灰田さんからライン来たの!!」
ルカは大はしゃぎでメドルサに抱きつく。
「しかも会ってルカさんのこともっと知りたい。だってー!どうしよ…テンション上がっちゃう!!」
ルカはニヤニヤしながら十代の女の子のようなキラキラした瞳でスマホの画面を覗き込んでいた。
「それは良かったね。安心したらお腹も減るだろう?ご飯食べないかい?」
メドルサは優しく問いかける。
「食べるぅー!なんかお腹減っちゃったよ!
あー、でも食べたら太っちゃうかなー?
まあちょっとならいっか!ご飯食べよ」
無邪気にはしゃぐ子供のようなルカにメドルサは先程言おうとした言葉を飲み込む。
ルカにとってどちらの方がいいかは明白だ。
それでもルカと最後まで一緒にいたい。
メドルサは何十年も前に忘れてしまった親心を思い出してしまい、何も言えなかった。
続く…
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