第9話 愛と恋の違いについては誰もわからない
真凛ちゃんと別れて家に帰ってからも、僕の気持ちは高ぶったままだった。
結局一睡も出来ず、完徹のまま学校へと向かう。
教室まで向かったはいいが、突然訪れた睡魔により僕は講義の大半を睡眠学習の時間へとシフトする事となってしまった。
僕はその後の空きコマを利用して図書館で仮眠を取り、太一へとラインをした。
『このあと暇か?相談したいことがあるんだけど…』
送った後に気付いたが、太一はこの時間厳しいことで有名な教授の授業が入っていたはず。
返信は当分来ないなと思い、もう一眠りしようとしていたところでラインがきた。
『お?なんだなんだ?とりあえずいまから飲み行くか?』
太一からのラインだった。
厳しい講義でもこのスピードで返してくる太一のメンタルに驚き、憎まれ口でも叩こうかと思ったが、今日だけは素直に感謝するしかなかった。
『たのんます!俺はもう講義ないからいつでも大丈夫だよ。とりあえず図書館にいるわ』
そう返信をして、眠気まなこを擦っていると数分で太一が到着した。
「お前、講義は大丈夫なのか?」
少し不安になり聞いてみる。
「大丈夫だ!便所行ってくるって言ってあるからな!便所は誰も責められるない。だろ?」
だろ?と言われてもな…
しかし今日はツッコミを入れられるメンタルでもなかった。
「とりあえず飲み行くか。この時間やってるとこあるかな?」
平日の15時台に飲める居酒屋なんてそもそもあるのかと不安に思っていたが、意外とそういうお店はあるもので、すぐに見つかった。
幸いなことに(この時間なら当たり前かもしれないが)客は僕ら以外には誰もいなかった。
僕らは生ビールとおつまみを適当に頼み、ビールが来るのを待った。
店内にはどこの地方でやってるのかわからないFMがずっと流れていた。
店員さんはタバコをくわえながら、野暮ったそうにビールを注ぐ。
とりあえず乾杯をし、一気にビールを飲み干す。
「んで、どうしたんだ?多分女絡みの話なんだろうけど…」
太一はタバコに火を点けてからそう静かに問いかけてきた。
「まあ女絡みなんだけどさ…
こないだ合コンで知り合った真凛ちゃんって子いたろ?あの子とこないだ飲みに行ったんだよ」
「おおー!しっかり連絡取ってやがったか!
しかもおデートまでちゃっかりしやがって!
圭祐も成長したな〜」
「おい、茶化すなよー!
あと連絡してきたのも、遊びに誘ったのも真凛ちゃんからなんだよ。
それで話してる時も結構俺に好意的な発言とかも多くてさー」
「にゃるほど、それで好きになっちゃったわけだ」
「まあそんなとこ…
けどさ真凛ちゃんは、いま熱中してることがあって、それが満足するまでは恋人は作らないって言ってるんだよ。」
「熱中してること?」
「そう…なんか小説書いてるみたいでさー。
んでこの前話したルカちゃんって子の話を小説で書きたいから色々話してほしいって言われたんだよ。」
「なるほどな〜」
「ルカちゃんのことは好きだったけど、真凛ちゃんと会ってからは真凛ちゃんのことしか考えられなくて…
でも真凛ちゃんとは小説が終わらないと付き合えない。そんな感じの状況なんだよ…
どうすりゃいいかなー?」
「うーん…とりあえず…」
太一は店員さんを呼び、生ビールを二杯注文する。
自分の分と僕の分だ。
「とりあえず相談には乗るんだけど…オブラートにはどれくらい包めばいいんだ?
圭祐はよく知ってると思ってるけど、オブラートに包まなきゃ俺は結構なこと言っちゃうぜ?」
「ああ、よく知ってるよ。オブラートなんかいらねぇ。本心で思ったことそのまま教えてくれ。そのために太一に相談してんだからな」
「おっけー。じゃあまず……はっきり言って、その真凛ちゃんとかって子は圭祐に気は全くない。
自分の小説の題材を探すために、合コンに参加して、いいネタを持ってる圭祐に狙いを定めた。
けど、一回会ったくらいじゃ小説のネタ全部は聞き出せないから、継続的に会うために色気を使って圭祐を誘惑した。こんな感じかな。」
思った以上の弾丸が飛んできて驚く。
ハッキリ言ってほしいと言ったのは僕だったけど、やはりへこむ。
「そうなのか…」
「ああ、おそらくな。要はお前は踊らされてんだよ。その女相当なやり手だわ、怖いねぇ〜」
被弾している僕に更なる追い討ちをかける太一。
僕は瀕死状態だった。
「まあただちょっと気になるのは…
お前を踊らしたままにしておくなら、彼氏は作らないなんてわざわざ言わないような気もするけどな。
なんかどえらい秘密を隠してそうだな…
まあそれより問題はその子じゃなくてお前だよ、圭祐!」
「はいっ!」
授業中、居眠りしている時に急に指された時のようにビクッとなる。
「お前は少し前まで魔女っ子、魔女っ子騒いでたのに、急に言い寄って来る女がいたら即鞍替え。ほんでその子が無理とわかると諦めかけてしまう。」
僕はぐうの音も出なかった。
「きっとまた別の可愛い子が言い寄ってきたらそっちになびくぜ。そんなハンパな事する程度なら好きとか付き合うとか言える立場じゃねぇよ。」
「たしかに…」
僕は傷口を抑えながらやっと答える。
「恋人ってのは作るもんじゃねぇんだよ。
作らないとか言ってたって好きになりゃ付き合いたくなるんだよ。
だから真凛ちゃんって子が、圭祐くんお願い付き合ってーって言うくらいアプローチすんだよ!」
「でも、どうやって…」
「いいか?まだお前は誰が好きとか言える立場じゃねぇんだ。魔女っ子も真凛ちゃんも相手のことをほとんど知らないだろ?」
「まあそうだな。」
「だったら付き合うために会うんじゃなくて、どんな人間なのか知るために会えばいんだよ!」
「なるほどな。」
「真凛ちゃんは小説の題材がほしいんだろ?だったら魔女っ子と会ってネタ用意して、ほんで真凛ちゃんに提供しろ!
それで何回も会ううちに人間性が分かった頃にどっちが好きか判断すりゃあいいだろ?」
太一の言う通りだった。
僕はルカちゃんの場合は顔。真凛ちゃんの場合は僕のことを好いてくれてる。その一面のみで好きといっていた。
「二人ともまだよく知らない女友達だ。
そんな女友達と遊んでるうちに好きだなって思ったら、攻めればいい。
そうなった時に彼氏いらないですとか言われたとしても、きっと諦めきれないでがむしゃらにアプローチすると思うぜ!」
「ほんとその通りだわ!さすが浮気しまくってる恋愛マスターは違うぜ。」
「おい!俺は別の女とヤっちゃう事はあるけど気持ちが浮ついた事はないぜ。もうあれはスポーツだからな。女友達とスポーツして汗を流した、それだけだ。」
「太一…お前やっぱど変態だな!」
最後は照れ隠しで皮肉を言ってしまったが、実際は太一にめちゃくちゃ感謝していた。
僕は悩みに押しつぶされどんよりとした気持ちでいたが、太一のおかげでそんな気持ちは吹っ飛ばされていた。
「よーし、じゃあこっからはぶっ倒れるまで飲むぞー!俺は講義抜け出して来てやったんだからな!その代償はでけーぞ!!」
僕らはその後真剣な話など一切せず、バカな話や下ネタで居酒屋を染めた。
僕はその途中で真凛ちゃんとルカちゃん両方にラインをした。
僕がゴールだと思っていたところはスタート地点だった。
でも一歩ずつ前に進むしかない。
酔いが回り、へべれけの中、僕はひとり闘志を燃やしていた。
続く…
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