第7話 モテ期到来!?
夏も終わり、季節に色味がかかってきた頃、僕の女性関係にも変化があった。
「灰田さん、こんにちわ。先日の飲み会ではお世話になりました。急にお呼びたてしてしまい、失礼しました。」
長く綺麗な黒髪を揺らしながら、彼女は丁寧に挨拶をする。
僕は、合コン後から真凛ちゃんとのラインを続けていた。
そして今日、初めて真凛ちゃんと二人で会うこととなった。
「こちらこそ、その節はどうもお世話になりました。再びお会いできて光栄にございます。」
丁寧に喋ろうとしたら、なんとも日本語で不自然な話し方で答えてしまう。
「そんなに気を使わなくても大丈夫ですよ。
立ち話もなんですので、どこか行きましょうか?」
「あ…そうですよね!じゃあカフェでも行きましょうか?」
「いいですね。カフェでお茶を飲みながら、灰田さんのお話をゆっくり聞きたいです。」
そして僕らは近くのカフェへと向かった。
このカフェはルカちゃんと以前行ったカフェで、ルカちゃんと会うと決まった時に必死になって調べた僕の必勝デートスポットの1つだった。
僕がルカちゃんと良い感じなのに、真凛ちゃんとデートしているかというと…
いつもルカちゃんに振り回されてしまい、リードできない自分を変えたいと思い、他の女の子と遊ぶことで女の子に免疫をつけリード力を鍛えようという目論見があった。
更にいうと、少し変わってるルカちゃんと上手くいく未来が見えないので、保険をかけるという意味もあった。
うーむ、我ながら最低な理由だ…
そんなことを考えてるうちにカフェに到着する。
すると真凛ちゃんの方から質問を切り出してきた。
「そういえば、灰田さんがこの前お話しされていた魔法使いの子でしたっけ?あの子の話もっと詳しく聞いてみたいです。」
彼女は僕の目を見てまっすぐな視線でそう問いかける。
「え?ああ…そんな大した話じゃないし、今日はせっかく真凛ちゃんとこうして会ってるんだからお互いの話を…」
「いえ、その話とても気になるんです!
私夜も気になって寝付けないほどでしたので、是非お願いします。」
おしとやかで物静かなはずの真凛ちゃんが食い気味で聞いてきた。
「ああ…じゃあ話しますよ…
ルカちゃんとは、マッチングアプリで知り合って何度か遊びに行ってるんですが、いつも話す話が自分が魔法界に住んでて、今年から魔女として会社で働いてる。敵のダークなんたらとの戦争に備えて日々事務処理や警備なんかをしてるとかそんなような話を毎回するんですよ。
それで僕が真面目な話に戻そうとするんですが、結局魔法界の話にどうしてもなってしまう。そんな感じですかねー」
「なるほど…それは実に面白い話ですね。」
真凛ちゃんは飲み会の時のような真剣な眼差しで、なにかを考えながらそう口にする。
「いやー、面白いんですけどね。僕としてはもう少し普通の話というか、そんな話をしたいなあと思うんですよね。」
「まあそれはそうですよね。その子は灰田さんのお友達が仰ってたように少し変わった子のようですね。私が殿方とお付き合いをする際に相手がそのような浮世離れした発言ばかりでしたら、灰田さんの様に悩んでしまうかもしれませんね。」
「ですよねー!よかったー!いやね、太一とか他の友達はこの話聞くと馬鹿にするだけで終わっちゃうんですよ。真凛ちゃんみたいに共感してくれる子は初めてなんでほんと嬉しいです。」
「そう思っていただけて私も嬉しいです。私でよければご相談に乗らせていただきますよ。」
真凛ちゃんは僕に優しく微笑みながら、僕にそう言ってくれた。
やばい…めちゃくちゃ可愛い。これまで表情をほとんど変えなかった真凛ちゃんの笑顔…
元々顔立ちが整ってるのもあり、僕はキュンとしてしまった。
「灰田さん、この後はなにかご予定はございますか?もし良ければもう少しお話をしたいのでお酒を飲みに行きませんか?」
「え…あっ…ぜんっぜん暇です!是非行きましょう!」
真凛ちゃんはおしとやかなのに、結構積極的な子だった。
女の子からお酒を誘われるなんて…
これは、今夜なにかあるかもしれない…
ルカちゃんのための練習のはずのデートだったのに、僕は目的をすっかり忘れ真凛ちゃんに酔いしれてしまっていた。
店を出る頃には、日が落ちてきていた。
家へと急ぐ学生達を横目に見ながら、僕らは居酒屋の方へと歩いていった。
女の子と行く居酒屋も既に調査済みだった。
個室があり、照明が少し薄暗く、テーブルにアロマキャンドルが置いてあるそんなオシャレ度満点なお店だった。
もちろんネットで調べて、行ったことはなかったが、よく来てるんだよという雰囲気を醸し出しながら案内した。
「素敵な雰囲気のお店ですね。こういうお店はあまり来たことがないので、連れてきていただいて嬉しいです。」
「まあ、そんな大したお店じゃないんだけどさー、一人で飲みたい時とかはこういうとこのが落ち着いて飲めるからよく来ちゃうんだよねー」
大嘘だ。
「先ほどのカフェも素敵なお店でしたし、お洒落なお店をたくさん知られてる男性は素敵ですよ。」
「いやー、そうですかねー!これくらいは普通ですよ!代官山の方に美味しいイタリアンのお店があるので今度はそちらにも一緒に行きましょうか。」
褒められれば褒められるほど、見栄を張り大嘘をついてしまう。
帰ったら速攻で「代官山 おしゃれ イタリアン」で調べよう…
真凛ちゃんは、前回の飲み会ではあまり喋らなかったから沈黙が続いてしまうかなと思っていたが、そんなことはなかった。
おとなしい感じではあるが、真凛ちゃんから意外と話を切り出してくれたりとか、僕の話にも乗ってくれたりして、結構話が盛り上がってる気がした。
「そういえば、真凛ちゃんは学生さんなんでしたっけ?」
「いえ、私は社会人をやってます。」
「あれ?そうでしたっけー?まさか、魔法界で働いてるとか言わないですよねー?」
僕はテンションが上がり、いつもよりもハイペースで飲んでしまったせいで、明らかにお酒が回っていた。
僕がそんな冗談を言った際に、真凛ちゃんの目つきが鋭くなったような気がしたが、酔っ払っていた僕は気にも止めなかった。
「そんなわけないじゃないです。私は美容室でアシスタントをさせてもらってます。合コンの幹事の夏菜子ちゃんはそのお店にお客さんとして来ていただいていて、そこで仲良くなって先日の飲み会にも誘っていただく運びになったんですよ。」
「そうだったんですかー。それはそうと真凛ちゃんは彼氏とかいるんですか?」
普段の僕なら決して聞くことが出来ないそんな質問をだいぶ強引にねじこむ。
「彼氏はいませんよ。というより私、恥ずかしながら殿方と交際した経験がないんですよ。」
「あ、そうだったんですか!そしたら僕と同じですね!」
カッコつけていたはずなのに、ここに来て思わず童貞カミングアウトをしてしまう。
「それは意外ですね。灰田さんのような方なら引く手数多のような感じがしますが…」
「いやー、それがからっきしでしてね!
むしろ真凛ちゃんの方こそすぐ彼氏出来そうだけどね。彼氏欲しいとか思ったりはしないのー?」
「もちろんお付き合い出来たら幸せだなあとは思いますが、いまは私やりたいことがあって、それに集中したいというか…」
「そっかー。集中したいことってなんなの?」
「…小説です。いま小説を執筆しているんです。
ただ最近中々良い案が思いつかなくて…
そうだ!灰田さんが話されてたその魔法界の話を小説の題材にさせていただいてもよろしいですか?」
僕は複雑な感情が入り乱れていた。
今の今まで僕はルカちゃんのことを忘れてしまっていた。完全に真凛ちゃんに気持ちが移ってしまっていたからだ。
しかしその真凛ちゃんは今は彼氏を作る気は無い。どうしたもんか…
「あんな話でよければ、是非是非させてください!」
真凛ちゃんの前で、僕はもう従うことしか出来なかった。
「本当ですか!?嬉しいです。灰田さんは本当にお優しいんですね。灰田さんに好かれてるルカさんに少し嫉妬してしまいます。なんて…」
少し頬を赤らめながらそう言う真凛ちゃんに僕は完全に骨抜きになってしまっていた。
また会う約束をして、今日は解散となった。
あ、そういえば!
ルカちゃんにライン返してなかったわ…
うーむ……今日はいいか。
電車の窓から見える満月のように、僕の心の中は真凛ちゃんのことで満たされていた。
続く…
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