第5話 まつりのあとに

「いやー、どうでしたか圭祐さん、今日の合コンは。」


改まった雰囲気で太一が聞いてくる。


合コンが終わった帰り道、僕らは近くの公園でささやかな反省会兼二次会を執り行っていた。


「どうもこうも俺のこと騙しやがって…」


「いやあ、悪い悪い。でも圭祐もそれなりには楽しめたんじゃねぇか?」


「まあ女の子と話するのは楽しいから良いけどさー」


「よかった、良かった。誰か良い子いたか?」


「いやー、みんな良い子そうだったけど、やっぱルカちゃんには敵わないなー」


「まーだ、魔女っ子ちゃんのこと言ってんのかよ!俺は夏菜子ちゃんだなー。スケべそうだったし、ありゃもう一回会えばヤれるぜ。」


夏菜子ちゃんとは、太一がマッチングアプリで知り合った女の子で今回の合コンの幹事の女の子だ。ギャルっぽくて下ネタも全然平気というタイプで僕が一番苦手とする女の子だった。


「お前はそんなことばっかだなー。彼女にフラれりゃいいのに!ただ…付き合いたいとかそういうのとは違うけど、真凛ちゃんって子はなんか気になるな…」



僕は最後のあの視線がやけに気になっていた。


女の子に好かれたことがないからわからないけど、あれは僕のことを好きとかそういった類の視線ではない気がする。何かもっと別の…


「まーた随分と陰気な女を好んだもんだな!

確かに顔はそこそこ可愛いけど、愛嬌はねぇし、話も全然盛り上がらねぇし、なんか気難しい女じゃねぇかー?」


「まあそうなんだけど、なんかな…」


真凛ちゃんは、色白で外国人のようなハッキリとした顔立ちだったが、あまり会話にも参加せず、どこか寂しげで、ミステリアスな雰囲気のある女の子だった。



「そういや、林ちゃんはどうだったんだよー!全然喋らないでクールぶりやがって、このこのぉ〜!」


「太一さん、失礼」


ドゴッ


鈍い音がして、太一が倒れこむ。

林の痛烈ボディブローが炸裂した。


「俺めっちゃ爆乳楽しみにしてたのに、酷いっす…」


林は顔を真っ赤にしながら、悲痛の思いを叫んでいた。


「林、てめぇ……悪かったよ…また今度爆乳紹介してやっからよ…」


ドゴッ


二打目のボディブローが太一の腹を突き刺す。


「俺もう帰りますからっ!」


林はそう言うと走って帰ってしまった。


「だいじょーぶかー、たいちー」


倒れこむ太一にひとまず息の根が止まってないかどうか確認のため声を掛ける。


「うぅ…あんにゃろう、覚えてろよ…こちとら先輩だぞ!」


「まああいつピュアでスケベだから、太一の言葉を信じて大分今回の合コンに入れ込んでたんじゃねぇのか?あとでちゃんと謝っとけよ。どうせ勝てねぇんだから。」


「まあな、キレるとなにすっかわかんねぇしな。うぅ…吐きそうだわ…」


「ここで吐くなよ、お前!じゃあそろそろ帰っか。」


そして俺たちは駅まで歩きそれぞれの電車のホームへと向かう。


別れしな太一が僕に言った。


「そういや圭祐!ちゃんと気になる子がいたなら連絡取らなきゃダメだからな!」



気になる女の子かー…


別に気になる女の子なんていなかったし、誰かと連絡を取ろうとも思わなかった。


そんなことより…ルカちゃんに返信しないと!


そう思ってルカちゃんのアイコンへと指を滑らそうとする。


しかし途中で別の人のアイコンで指が止まった。


それは、真凛ちゃんのアイコンだった。


真凛ちゃんのアイコンは、三羽のカラスが写った写真だった。


不思議な子だなあと思うと同時に、少し気味が悪いなとも思っていた。


するとそんな不気味なカラスが唐突に鳴き出した。


驚くことに真凛ちゃんの方からラインを送ってきたのだった。


「こんばんわ!黒羽根 真凛くろばね まりんです。

先程はご馳走様でした。とても楽しかったです。

突然なんですが、またお会いすることは可能でしょうか?」



非常に堅い文章だなと思いながら読んでいると、最後に予想だにしない質問があり驚いてしまった。


僕は女の子からまた会いたいなんて言われたことなどない。

どうしよう。どうすればいいんだ。この感情はなんなんだ。

モテたいとは思っていたが、実際にチャンスが巡ってくるとどうにも複雑な気分になってしまう。


まあしかし…

僕にはルカちゃんがいるのだ。

真凛ちゃんの事は今日で忘れよう。

ルカちゃんだけで良いんだ。

男に二言はない。

そう心の中で誓った。


はずだった…


「こちらこそ、ありがとうございました!

めちゃくちゃ楽しかったです!

僕も真凛ちゃんとはあまりお話出来なかったのでもっとたくさんお話ししたいと思ってたんですよー!ぜひお会いしましょう!」


…思わずノリノリで返信してしまった!!


僕としたことが…

これでは太一と変わらないじゃないですか…


そう後悔したが、電車の窓に映る僕の顔は明らかにニヤニヤしていた。


やばい、だいぶキモいな僕…


つづく

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