第5章35幕 強制<coercion>
「違和感がすごい」
エルマの言う通り違和感がすごいです。
内部は座敷のようで、一面が畳張りになっていました。
畳の上を靴で歩くという初めての経験をしながら、私達はレクレールの元へと行きました。
「悪いな。そこに腰降ろしてくれ……って慣れてるな嬢ちゃん達」
「えっ?」
机の場所にすっと座ると少し驚かれてしまいました。
「いや。普通に皆地面に座るのを嫌がるもんだからよ」
なるほど、たしかに。こちらで生きている人や外国人ですと違和感があるかもしれませんね。私達は靴を脱がないことが違和感ですが。
「何かききてぇことでもあるか? 調査、なんだろ?」
レクレールは調査いう言葉を少し強調しながらウィンクをします。
「王族が警備隊長って大丈夫なんですか?」
私がそう聞くとお茶を啜っていたレクレールが机に湯呑を置き、答えます。
「問題ない。警備だけだからな。もし凶悪犯とかが入り込んでいたら精鋭の軍事部隊が出動することになっているからな」
「精鋭の軍事部隊ですか」
「あぁ。周辺のモンスターをみたか?」
「ん? えぇ」
「嬢ちゃん達にはどっちに見えた?」
どっちと言われると悩みますね。とりあえず性向度がマイナスの状態の時の様子でも伝えておきましょうか。
「見た目のわりにステータスは狂暴そうに見えました。でも実際はそこまで強くはありません」
「なるほどな。ついこの間ここに来た外の人がいたって言ったろ? そいつらによると、『高レベルでも複数人じゃないと倒せない。〔ユニークモンスター〕レベルだ』と言ってたぞ。この差は何だろうな?」
そう言って少し目を細めながらこちらを見ます。
情報交換がしたい。
そういう目をしていたので応じます。
「それは性向度の違いではないでしょうか」
「低いと強くなるのか?」
「いえ、逆です。高いと強くなるんです」
「どういうことだ?」
「えっと……」
私が少し説明の為に言葉を選んでいると、エルマが代わりに回答してくれました。
「性向度が高い人にペナルティーがあるんだよ。この周辺。モンスターがめちゃくちゃ狂暴に見えたり、秒間でHPにダメージを受けたり、ステータスが制限されたり」
「なんだとっ!?」
持っていた湯呑を危うく落としそうになりながらレクレールが食いついてきます。
「本当なのか!? だからこの町にも別の街にも性向度の低い外の人しか着ていなかったのか。高い善人は死んじまうから」
そこまで言ったレクレールは生えてきたであろう髭をじょりじょりしながら何かを考え始めます。
数分間考えた後、彼は立ち上がりました。
「すまないがこのことを本部に伝えたい。一緒に来てもらえるだろうか」
「私はかまいませんが……いえ、ご一緒します」
答えながらエルマとマオの顔を見たら「いいよ」という顔をしていたのでついて行くことになりました。
本部に行くことをサツキとステイシーにも告げ、レクレールについて街を歩きます。
しかしそのままの格好ですと、住民に疑いの目を向けられるということで、制服を一式貸していただきました。
制服を来て歩くだけで街の人からは感謝のこもった視線を向けられます。先ほどレクレールに話しかけられた時とは大違いですね。少し気分がいいです。
そうして少し歩くと本部らしき場所に着きました。
「警備隊長レクレール・カルミナだ。扉を開けてくれ」
レクレールがそう言うと、重厚な閉ざされた扉がぎぃという音を立て開きます。
「さぁこっちだ。総隊長がお待ちだ」
レクレールについて本部に入り、しばらく歩くと総隊長室と書かれた部屋があり、そこを開けてレクレールが入っていきました。
「いらっしゃい。さぁ君たちも入るといい」
開いた扉から見える執務机のようなものの奥から声がかかり、入室が許されたので私達も入室します。
…………。
総隊長室というところに入室したはいいのですが……。誰もしゃべりません……。めちゃくちゃ空気が重い……。
私がそう思い非常に長く感じる3分間を過ごしていると再び扉が開かれ、ポットと急須を持った女性警備隊員が入室し、全員に湯呑を配ってまた退室していきました。
「いや。ごめんね。一般隊員には聞かれたくない話だったもんでね」
そう言いながら声の主は茶を啜っていました。
「紹介する。こちら右からチェリー殿、エルマ殿、愛猫姫殿だ。あちらは俺の弟、ジャイナス・カルミナだ」
「紹介されたジャイナスだよ。堅苦しいのはいらないから素で話してくれていいよ。ところで兄さん。兄さんが直接ここに来るのって珍しいね。何かあったの?」
ジャイナスはあまり言いたくはないのですが、仕事ができなそうな感じなのですが、なぜ総隊長なのでしょうか。
「いや。結構大事なことを聞いてな。直接聞いてもらおうと思ってよ。エルマ殿、もう一度話してくれるか?」
「いいよ。えっとね……」
先ほどレクレールに話した内容をもう一度ジャイナスに伝えます。するとジャイナスも多少驚いた様子で目を見開きながら話を聞いていました。
「なるほどね。それでこの都市にはやべぇ外の人しか来なかったわけか。でもどうするればいいんだろうね。俺たちにできることはないんじゃない?」
「あの噂が本当か調査してもらうのはどうだ? ちょうど調査、に来ていると言っていたしな」
レクレールが再び調査という言葉を強調しながら話します。
私は嫌な予感しかしませんでしたが、おとなしく聞いていることにします。
「それも悪くないね。じゃぁ愛猫姫、エルマ、チェリー三人に依頼を出そうか」
知ってた。この展開は読めてた。
「あたしたち他に仲間が二人いるんだけど、その二人にも確認を……」
「その必要はないよ」
エルマがしゃべっている途中でジャイナスが遮り、ちりりんとベルを鳴らします。
すると扉が開かれ、先ほどの警備隊員ではなく、屈強な軍人が入室してきます。
ステイシーとサツキを連れて。
「ステイシー……サツキ……なんでこんなことしたの!? お姉ちゃん悲しい……」
エルマが突然昨日の夜やっていたドラマのセリフを言い始め、泣き真似をし始めましたが、それは無視して、ジャイナスの方を睨みます。
「おっとそんな怖い目を向けないでよ。別に捕まえてきたわけじゃない。外の人を見つけたらここに連れてくるように頼んでいるんだ。その人たちにこちらからの依頼をこなせる力があるか見るためにね」
「実際ワタシ達は特に何事もなく街を探検していたよ。だが、そちらにいる良い肢体のお兄さんに声をかけられたところ周囲の空気が一変してね。一刻も早くそこから逃げ出したいと思った矢先、ここに来ると大丈夫と言われたのでお言葉に甘えただけだよ」
「こっちも似たような感じ」
こちらとあちらは似たような感じだったようですね。
「もともとここは無犯罪だからな。俺たち警備隊の仕事は『外の人を探すこと』だし、そこの木偶の仕事も『外の人を探す』だ」
レクレールの言い方に少し棘がありますが、あまり仕事に差はないということがわかりました。
「あぁ。彼はハンレンサル・カルミナ。俺らの弟だ」
ジャイナスがそう紹介してくれます。
「どうも。ハンレンサル・カルミナという。軍部主任だ。よろしくたのむ。それと兄よ」
「なんだ?」
「なんだい?」
「長兄よ。木偶は酷い」
「図体ばかりでけぇんだ木偶でちげーねえだろ?」
いや。それならあんたも十分木偶だよ。
「話が脱線したね。では君たちに依頼……と行きたいんだけどね。その前にやることができたよ。君たちから三人選んで俺たちと戦って貰って決めよう」
えっ? どういうこと?
「意味が分からないね。どういうことだい?」
サツキが声にだし確認してくれます。
「ん? あぁすまない。君たちにこの依頼をこなせるだけの実力があるか調べたいんだ。試験だね」
そう言ったジャイナスが紙を三枚取り出し、宙に放りました。
すると紙に意思があるかの様に飛び、サツキ、エルマ、マオの前に落ちました。
「なるほど。君たち三人か。その紙を拾い上げて番号を教えて」
「あたしは1番」
「ワタシは3番だ」
「マオは、2番」
「なるほど。じゃぁ結界装置がある訓練場に行こう。なぁに、実力を見るだけだよ。痛いことはしないさ」
そう言って大剣を取り出し、歩き始めるジャイナスに続いて、レクレールとハンレンサルも歩き出しました。
「そう言うことだ、嬢ちゃん達。面倒だが付き合ってくれな」
「手加減はする」
すれ違う瞬間、レクレールとハンレンサルにそう声をかけられますが、私達承諾した覚えが無いんですが……。
to be continued...
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