第5章34幕 意識力<volition>

 走り出したエルマに続き私達は歩くペースを少しあげ、『無犯都市 カルミナ』に到着します。

 「すげぇ!」

 エルマが「すげぇ!」といった通り、凄い都市でした。

 まずとても色彩豊かで、活気に溢れています。そして、あまり見ることのない亜人種族やその他の種族が共生していました。

 「これはなんというか圧巻だ。ここは本当に性向度マイナスのプレイヤーのための都市なのか?」

 サツキが小声で言いましたが、私も同じように思います。

 「とりあえず入ってみようよ!」

 ぴょんぴょん飛び跳ねながら、エルマが門を指さします。

 「まぁそうだねー。入ってみないとねー」

 ステイシーもエルマの方に歩いて行ったので残された私達も、追いつく様に歩いて行きます。


 「入国したいんだが、いいだろうか?」

 サツキが門番兼入国審査官のような男性に話しかけます。

 「ええ。もちろんです。特に手続きなどはありませんので、ご自由にお入りください」

 そう言うと門を開けてくれ、私達を内部へと入れてくれました。

 「外の方ですよね? お宿はこの門をくぐって大通りを4.5分歩いた十字路を左に曲がっていただけますと何軒かございますのでそちらをご利用下さい」

 丁寧に宿の場所まで教えてくれました。

 想像以上ですね。


 宿を取るべく門番に教わった道を進んでいると、案内所や居酒屋、食事処等、他の都市と比べても遜色ないほどの物が並んでいました。

 「なんら変わらんのだな」

 「亜人が多いだけで、それ以外はほとんど一緒だね」

 サツキとエルマもそう言いながら街並みを眺めています。

 「でもこの人達ってみんな性向度マイナスなのかな?」

 私がぽつりと放った疑問に、マオが答えます。

 「違う、わ。プラスよ」

 「この人たちは性向度のアレ関係ないのかな?」

 「そうかもしれないね。まぁ詳しく調べれば分かるだろうさ」

 サツキがそう言う通り、詳しく調べれば色々と見えてきそうですね。


 そして宿屋に到着した私達は、3泊ほどを申し込み、再び街に出ます。

 「じゃぁ、あたしとチェリーとマオで案内所を見てくるね」

 「ならワタシはステイシーと一緒に街見物と洒落込んでくるよ」

 二手に分かれ、行動することになりました。


 「とうちゃーく。図書館とか入ってるかな?」

 「行けば、わかるわ」

 「うん」

 エルマの横を通り、そそくさと案内所に入っていくマオの後に続き私も案内所入ります。

 しかし、エルマがなかなか来ないので振り返ると、ポーズを取ったまま固まっていました。

 「おいてくよー」

 「ひどいっ!」

 すぐにポーズを崩し、こちらに走ってくるエルマと合流し、改めて案内所へと入りました。


 案内所の構造も他の都市と変わらないものだったので、迷わず図書館部分へと到着します。

 「すいません歴史書を探しているのですが」

 私がそう司書に聞くと、場所を教えてくれたので、そちらに行き、何冊か見繕います。

 「このくらいかな?」

 見繕った数冊の本を手に、エルマ、マオの元へ戻ります。

 「思ったより薄いね」

 「まぁ新マップだしね」

 歴史書はつまり設定資料集みたいなものなので、プレイヤーにとっては参考になることしか書いてありません。新規実装マップですと、より顕著です。

 というわけで三人で手分けし、歴史書を読んでいると、エルマが「あっ」と声をあげました。

 「どうしたの?」

 「ここ! 読んで!」

 エルマが見せてきた文章を読みます。

 「えっと……『『無犯都市 カルミナ』は、種族による迫害、【称号】による冷遇、立場による差別、全てを否定する思想により誕生した都市である』って書いてあるね」

 「なにか関係あるんじゃないの?」

 「んー。どうだろう。でもヒントにはなるかもしれないね」

 私はエルマにそう返し、自分の手元に再び視線を落としました。


 三人で大方の本を読み終わり、一度図書館から出ます。喫茶スペースにやってきた私達はそこで話し合います。

 「つまり立場での差別を廃止ってことが性向度マイナスのほうが有利なマップってことでいいんじゃないかな?」

 エルマが紅茶を飲みながらそう言います。

 「私もそう思った。気になるのはエルマが読んでた本の【称号】による冷遇って気になるかな。装備してると不都合な【称号】なんてあったっけ?」

 「【犯罪者】、よ」

 「あっ!」

 そうでした悪人系【称号】は基本的にプレイヤーは装備しないので忘れていましたが、NPCは悪人系【称号】を外すことができないので忘れていました。

 「これでビンゴかな?」

 「答えになってるかわからないけどね。でも理解はできた。なんで『無犯都市』なんだろう」

 「それは、犯罪を、禁止している、からよ」

 私の質問にマオが答えます。

 「内部で、罪を犯したら、恒久的に、入国を禁止、しているそう、よ」

 先ほどマオが読んだ本の中に答えが合ったようですね。

 「そっか。まぁ罪を犯さなければなんてことないって事だね」

 「ここまで来るのが一苦労だけどね」

 「そう、ね」

 「とりあえずクエスト覗いてからステイシー達と合流しよっか」

 私がそう言うと、二人はコクリと頷き、立ち上がりました。

 そしてクエスト掲示板を眺めていると気付いたことがあります。

 「護衛系とか賞金首系のクエストはやっぱりないんだね」

 私はエルマとマオに言ったつもりでしたが答えは別のところから帰ってきました。

 「それはそうだ。ここは無犯罪を謳っているからな。賞金首などそもそも都市に入れん」

 「外の人だったらどうするんですか?」

 「勿論入れる。勝てないからな」

 自信たっぷりに腰に手を当てながら言うことでは無いと思いますが。

 「おっと自己紹介がまだだったな。俺は『無犯都市 カルミナ』警備隊長レクレール・カルミナだ」

 カルミナ?

 「チェリーです。もしかして王族でしょうか?」

 「一応な。祖父が国王だったからな。この都市が『ヴァンディーガルム』で一番広いが、他に都市がないわけでもない。だから王族が警備隊長として小さい都市にも出向くんだぜ」

 「そうなんですね」

 「ところで嬢ちゃん達は外の人だろ? どうしてここへ? 見たところ罪人には見えねぇが」

 いえ? 昔、重罪人に仕立てあげられてましたよ? ここにいる三人。

 「調査です」

 「ほう。調査、ね。良ければ警備隊の詰所に来るか? そこでなら気兼ねなく話せるぞ?」

 そう言いながらレクレールは周りにちらりと視線を向けます。

 回りの人達はなんというか、私達に疑いの目をかけてきている様に見え、少し居心地が良くありませんね。

 「ではお言葉に甘えます」

 「こっちだ。ついてこい」

 そう言って先導するレクレールについて行きます。


 「悪いな。俺ら警備隊は歩いて話しかけるだけで相手に疑いの目を向けさせてしまう」

 「事情は分かっています」

 警備隊が話しかける人はつまり何やら悪いことをしているということになってしまいますからね。

 「ここだ。靴は脱がなくていいぞ」

 「はい。ん? 靴?」

 「ん? あぁ。ちょっと前に来た外の人が靴を脱いだんでな。そうする文化なのかと思ってよ」

 あー。ハリリン達でしょうか。悪人ロールの人で靴を脱ぐ人はまずいないでしょうし。

 「わっ。これは確かに靴が脱ぎたくなる……」

 エルマが扉の先に入り、そう声をあげました。

 私も続いて入ると、確かにこれは靴が脱ぎたくなります。

 日本人ならば靴を無意識に脱いでしまう絶妙な段差がありました。

 「これ、は……」

 マオですら困惑していますね。

 「ん? どうした早く上がってこい。茶を出すぞ?」

 レクレールの急かす声が聞こえてきたので、意志力で靴を履いたまま段差を上りました。

                                      to be continued...

 

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