第4章46幕 焼き魚<grilled fish >

 ログインし、フレンド欄を確認すると私以外はみんなそろっているようでした。

 パーティーメンバーの座標を確認するとすぐこの真下、つまり一階にいるようなのでそちらへ向かいます。

 エレベーターで降り、合流します。

 「おはよ」

 「おはよう。遅かったね。寝坊?」

 エルマがそう聞いてきます。

 「いや。起きてからTACでちょっとお買い物してた」

 「ほーん。何買ってたのさ?」

 「自動調理機の拡張だよ」

 「おー! 何にしたの?」

 「中華と和食と洋食とスイーツの拡張」

 「いいなー。感想よろしく」

 「うん。食べたらね。みんな揃ったしそろそろいく?」

 「そうだねー。いい時間だし、いこっかー」

 ステイシーがそう言うと、サツキや愛猫姫も賛成たのですぐにクルミに声をかけます。

 「じゃぁお願いね」

 「わかった。馬車だして来てもらうね」

 「うん」

 私はその間に宿泊分の清算を行います。

 「5名様と追加一泊のお客様ですね。合わせて、33万金ですね」

 高級宿のはずですが思ったほど高くなかったですね。

 清算を済ませ表に出ます。

 昨日座席を拡張した馬車とフレンデールが準備万端といった様子で待っていました。

 すでにクルミは御者台についており、私が乗り込むのを待っています。

 「またせてごめんね」

 クルミとパーティーメンバーにそう伝えひょいっと馬車に乗り込みます。

 「では『氷精の海 シーブリージア』へ参ります」

 一昔前に流行った化粧品ブランドみたいな名前ですね。


 『雷精の里 サンデミリオン』を出発し、しばらく進むと、気温が下がりはじめました。

 「皆様、外套等お持ちでしたら着用ください。ここから先はかなり冷えますので」

 「クルミはある? 大丈夫?」

 私がそう声をかけると少し困ったような様子で返事をしてきます。

 「ごめんね。ちょっと持ってなくて」

 「分かった。じゃぁこれを着て」

 私が防寒用に持っていた【極厚毛套 べあふぉっくコート】を渡します。

 「いいの?」

 「うん。私達は馬車の中だからクルミには一番暖かいのを着ていてほしい。

 「ごめんね、ありがとう」

 受け取ったコートを手綱をうまく持ち替え着用していました。

 「じゃぁー、暖をとろっかー。≪エアボール≫、≪ブルー・ファイアーローズ≫」

 ステイシーが空気の球体を作りその中に、熱を放つ美しい花を咲かせました。

 「これで馬車内は少しあったかくなるね。いい魔法だ」

 サツキがそう言いながら、赤いトレードマークのコートの前を閉めます。

 エルマとステイシーは普段装備しないコートを装備し、愛猫姫も一枚多めに着ていました。

 私は分厚いコートをクルミに貸してしまいましたが、それより少し薄いですが、戦闘と両立できるカーディガンのようなものを羽織ります。

 メイド服とカーディガンってあんまり会いませんね。まぁ贅沢は言っていられません。

 あっ。〔ヴィジュアル・オーヴァーライト〕に非表示にする機能がありましたね。

 非表示にしておきましょう。

 そうして各々防寒を整えていると、さらに冷え込み、雪のようなものがちらつき始めます。

 「さっむいね」

 「ほんと、さむいわ」

 「でもワタシは寒くて、雲一つない空を見るのはとても好きだよ」

 「分かる」

 「僕、寒いの苦手だからきついー」

 みんなで他愛もない話をしていると『氷精の湖 シーフリージア』に到着しました。

 「お疲れ様です。到着しました。私は休憩所に居りますので何かあったらお呼びください」

 私達が皆馬車から降りるとクルミはそう言って休憩所の方へ向かっていきました。

 「海と言っている割には雪山のようなものがあるんだね」

 サツキのその呟きに対してエルマがすぐに返します。

 「さっき調べてたんだけど、スキーができるみたいだよ」

 「それはいいね。少し滑っていくかい? と言ってもワタシはあまり上手ではないんだが」

 「私は精霊神像を探してから合流するよ」

 「わかった。じゃぁワタシは先に行っていることにするよ。なにかあったらパーティーチャットで教えてくれたたまえ」

 そう言い後ろ向きに手を振りながら皆で歩いていきました。

 おっと。こっちに来る人は誰もいないようですね。


 町中を少し探検するかのように歩きます。

 歩き回っていると分かることがあったのですが、この副都市は地面が氷でできているようです。

 「おいしぃ焼き魚はいかがぁ?」

 そう客引きの声が聞こえます。

 少し気になったので行ってみましょうか。

 「一つください」

 「はぁい。ちょっとぉ、まってねぇ」

 「少し聞いてもいいですか?」

 「なぁんですかぁ?」

 「ここって凍った海の上なんですか?」

 「はぁい。そうですよぉ。もっと西のほうですねぇ、まだ凍ってない部分もぉ、あるのでいってみてくださぁい」

 「ありがとうございます。精霊神像がどこにあるのかご存知ですか?」

 「知ってますよぉ。でもたどり着くのは大変なんじゃないですかぁ?」

 「どういうことですか?」

 「凍った海の底ですものぉ」

 なるほど。凍った海の底にある像にはなかなかたどり着けませんね。

 「見に行くなら頑張ってくださぁい。こちら焼き魚でぇす。熱いから気を付けてたべてぇ」

 「ありがとうございます」

 焼き魚を受け取って眺めます。

 こういうの憧れだったんですよね。串に刺さって焼いてある魚を食べるの。

 串の両端を手で持ち、背中側からガブリと噛みつきます。

 香ばしい焼けた皮の匂いと、ほくほくの身が非常に美味しいです。骨も見た目ほど固くなく、普通に飲みこめるものでした。

 特に味はついていないものの、海の魚を使っているからか、程よく塩味があり、誰が食べても美味しい逸品です。


 焼き魚を食べながら案内所を目指し歩きます。

 この都市のお店がどれも屋台的な物であることに多少の疑問を感じつつも歩くと、案内所と書かれた木造の建物を発見することができました。

 そして狭いその建物に入ります。

 「珍しいな。ボランティアか?」

 漁師のようにも見える男性が話しかけてきます。

 「いえ。精霊神像を一目見たくて来たんですが、どうも海底にあるようなので何かいい案はないかなと立ち寄りました」

 「なるほど。嬢ちゃん水中戦闘の経験はあるか?」

 「いえ。ありません」

 VR化前は結構やっていたのですが、VRになってからは一度もないですし、そう答えておきます。

 「そうか。呼吸用のマスクと水中で移動するなんかしらの手段はあるか?」

 「呼吸用のマスクならあります」

 「移動は?」

 「ないです」

 「見たところ魔導士っぽいな。水魔法か風魔法は?」

 「一応使えます」

 「そうか。変質魔法に心得は?」

 「それはないですね」

 「なら水中戦闘用の装備を整えて、もう一度来てくれ。方法を教える」

 「わかりました。どこかに武具屋はありますか?」

 「すぐ隣がそうだ」

 「ありがとうございます。言ってきます」

 男性にそう答え、私は案内所から出て隣の武具屋へ向かいます。

 「すいません。水中戦闘用の装備が欲しいのですが」

 「はい。武器は何を?」 

 「基本的には魔法です」

 「魔法ですか……水中戦闘は止めた方が……」

 思い出しました。VR化前も水中戦闘では魔法がほとんど発動できず、ステイシーがデキシーしてました。

 「一応剣も扱えるので、そちらで潜ります」

 「なら……えっと海底まで行きます?」

 「精霊神像見に行くつもりなので海底までですかね」

 「あっでしたらおもりも必要ですね。あとは……帰りのための鉄鎖ですか。海底までは100m程なのでそのくらいで用意しておきます。おもりは浮上するときに捨ててください」

 「分かりました」

 「8万金です」

 あっ。安い。

 そうして受け取った水中用の装備を手に持ち、案内所まで戻ります。

 「おっ。買ってきたかい?」

 「ええ」

 「んじゃぁついてきな。っとその前に一つ依頼をうけてくれないか?」

 「内容によります」

 「海底、精霊神像周辺のおもりの回収だ。結構な人がそのまま捨てっぱなしだからな。たまに回収しないといけないんでな」

 「なるほど。分かりました。では私はどうやっておもりを回収すれば?」

 インベントリに入れれば簡単なのですが。

 「俺が上から籠をおろすからその中に入れてくれ、後は装置で回収する」

 「分かりました」

 「タイミング良く来てくれて助かったぜ。じゃぁついてきてくれ」

 そういう男性について案内所から出て私は西の方へと歩いていきます。

                                      to be continued...

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