第4章47幕 潜水<diving>
「タイミングがいいとはどういうことですか?」
少し気になっていたので尋ねてみました。
「あぁ。このところ海底のおもりを回収してなかったからな。ちょうどいいタイミングで話の分かるやつがきてくれたなって思ってよ」
「なるほど」
そろそろ回収しなきゃっていうときにのこのこやってきてしまった私に白羽の矢が立ったというわけですね。
「こっちだ」
「はい」
潜るためのポイントか、精霊神像の上なのかまだ分かりませんが、大きく穴の開いた部分までやってきました。
「この真下に精霊神像がある。ここから潜ってくれ」
「分かりました」
「鉄鎖はあるか?」
「一応持ってきました」
「上出来だ。これを水中戦闘用の服に付けろ。水中戦闘服はどうした?」
「いま着ます」
そう答え、水中戦闘装備に切り替えます。
「ところで戦闘技能はどのレベルだ?」
「そこそこという感じです。初の水中戦闘でもLv.100未満のモンスターには負け無いと思います」
「なら大丈夫か。良し鎖を付けた。先に籠をおろす」
そう言った男性が籠に別の鎖を付け、穴に沈めていきました。
「海底まで到達するのに人体ならおおよそ10分ってところだ」
「分かりました」
「マスクはどれくらい持つ?」
「2時間くらいは平気なはずです」
「大丈夫だ。良しいつでもいいぞ。海底のおもりを全部回収したら籠に入れろ。そのあと自分に着けているおもりも籠に入れ、鎖につかまって浮上しろ。浮上はあまり急ぐなよ。風船みたいにぱんぱんになっちまうからな」
あぁ。潜水症ってやつですね。
「気を付けます。では行ってきますね」
私は男にそう話しかけ、恐る恐る穴に入っていきます。
チャポンと音を立て、もぐり始めると、見慣れない表示が出てきます。
《高圧》と書かれています。
まぁ水中ですから仕方ありませんね。
海底に着くまでやることがないので調べてみましょうか。
そう思った私はヘルプ画面を開き、《高圧》について確認します。
《高圧》の状態異常に罹っている場合、AGIとDEX、STRとCONが10分の1になってしまうそうです。
結構キツイデバフですね。水中戦闘があまり流行らないのも分かります。
上から差し込むかすかな光すら届かなくなり、辺りが一面暗闇に包まれます。
ライト持ってくるの忘れました。
仕方ないので何か魔法で代用しようとします。
「…………」
マスクの内側で口を動かし、灯りを出そうとしますがうまく魔法が発動しません。
なぜ……?
私は再びヘルプ画面から調べます。
特殊な戦闘についてと書かれた項目の下方に水中戦闘について書かれた部分がありました。
要約すると水中で魔法を発動するのは難しく、たいていが失敗に終わるそうです。
回避方法としては【人魚】や【水中戦士】の【称号】を獲得すること、発声の必要ない魔法を用いること、とありました。
私は発声をしないで発動できる魔法は習得していませんし、【称号】もありません。
どうしようか。そう考えていてふと思い出したことがあります。
【暗殺者】に備わっているスキルではないのですが、【暗殺者】にはある種必須と言えるスキルがあります。
≪暗視≫もしくは≪夜目≫です。
インベントリを操作し、ブーツを≪暗視≫スキル付きのものに取り替えます。
そうすると視界が突然クリアになり、回りを見回すことができました。
≪低体温≫という状態異常にも罹り、ほとんど戦闘行為が行えなくはなってしまうところなのですが、いま着用している水中戦闘装備には≪低体温≫の無効化スキルがあるので助かりました。
周りを見ながら沈んでいくと、周囲にモンスターらしきものが集まってくる気配を感じます。
ですが、好戦的というわけではなく、私にぶつかりながら泳いでいるだけという結構可愛いものでした。
長いようで短かった沈む時間は海底に足を付けたことで終わります。
≪暗視≫が発動しているおかげで、周囲においてあるおもりが良く見えます。
そちらを回収しながら精霊神像を探します。
沈んでいる間に少し流されたのか、近くに精霊神像はなく、きょろきょろとあたりを見回します。
すると背後にひと際大きい石のようなものが見えました。
あそこかな?
そう思い私はそこまで海底をゆっくりと歩きます。
近づいてみると、精霊神像で間違いなかったようで視界に『精霊神像6/11』と表示され、安堵の息を漏らします。
あとはおもりを回収して籠に入れていくだけですね。
周囲に散らばったおもりをいくつか抱え、少し離れた場所にある籠に入れていきます。
その作業を何度か繰り返し、見渡す限りにおもりが落ちていない状況になったので私に着いたおもりも籠に入れ鎖をたどって浮上します。
特に何もせずとも自然と浮いていくので思ったよりも楽ですね。
モンスター達にも襲われ無かったですし。
ある程度登ってくると上から光が差し込んできます。
もうすぐあがれそうですね。
来る時よりも少し短い時間で浮上を完了し、私は穴の部分から顔を出します。
「よっしょ」
サバッと音を立てながら氷によじ登り、案内所の男性を探します。
「回収おわりました」
こちらに背を向け、地面に座っている男性にそう声をかけます。
「おお。早いな。よし籠あげちまうか」
そう言って立ち上がった男性が籠につけた鎖が巻きついている滑車のようなものを手で回していきます。
「とりあえずお疲れ様だ。報酬はしっかり払うからちょっと待ってくれ」
「はい」
鎖を巻く作業をしばらく眺めていると、籠が水面に出てきました。
「よっこらっせ」
男性が籠を回収し、氷の上におもりを並べます。
「ひーふー……」
口に出しながらそう数を数えていきます。
「合わせて42個ってとこか。報酬の21万金を案内所で支払おう。ついてきてくれ」
「わかりました」
私はそう返事をし、彼について案内所まで戻ります。
「これが報酬だ。ところでモンスターと戦闘にならなかったのか?」
「なりませんでしたよ」
報酬の21万金を受け取りつつ、答えます。
「他の外のやつらとかこの町にいる【ダイバー】他のとこから来た【ダイバー】もみんな襲われているんだけどな」
「そうなんですか?」
「何かそいつらと違うとこがあったっていうことか」
違うこと……。
「もしかして皆さん灯りを持っていませんでした?」
「ん? 当たり前だろう。暗いんだから」
「なるほど。じゃぁたぶんそれですね。私は灯りを持たずに行ったので」
忘れたとは言わず、持って行かなかったと言います。
「じゃぁどうやって集めたんだ?」
「≪暗視≫です」
「なるほど……。そう言うことか。ちょっと俺は協会に行ってくる。こいつを受け取ってくれ」
そう言って100万金を手渡してきます。
「情報料だ。俺は案内所役員兼情報屋なんでな。いい情報は大歓迎だぜ」
情報屋だったんですね。でも臨時収入はうれしいです。最近出て行くお金のほうが多すぎましたから。
私は案内所を後にし、みんなと合流するべく雪山の方へ向かいます。
『みんないまどこにいる?』
『いまは山頂にいるよ。リフトのようなものも在ってなかなか快適だ。チェリーも来るといい』
『わかった』
『乗り場の近くで現実世界と寸分変わらないスキー道具が売ってあるから買ってくるといい』
『ありがとう』
サツキの助言に従い道具を購入しようとします。
「おや。プレイヤーだね?」
「はい」
「スキーにする? スノボにする?」
「どっちが楽ですか?」
「スキーと言いたいところだけど、滑るだけならスノボのほうが楽だね」
「じゃぁスノボで」
「あいよ」
「どうしてこんなところでお店を?」
「スノボが超好きだからかな。年中無休で滑れるこの環境が理想過ぎてもう離れられないよ」
「なるほど」
「デザイン結構あるけどどうする?」
「じゃぁ……これがカワイイのでこれで」
「ほう。なかなかいいもの選ぶね。それは結構滑りやすいよ」
「そうなんですか」
「詳しく説明しても分からないから止めとくよ。さっきプレイヤーが5人買って行ったけど知り合いかな?」
「ええ。パーティーメンバーです」
「ああ。そうなんだ。赤いコートのイケメンがかなりできそうだったから教えてもらうといいよ。何かあったら連絡して」
そう言って名前の書かれた紙を手渡してくれました。
「ありがとうございます。では行ってきます」
「たのしんできてね!」
スノウというそのままの名前の彼女に見送られ私はリフトに乗り込みました。
to be continued...
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます