第4章45幕 拡張<extension>
クルミとの買い物を終えるとすでに日が落ち、夕食にちょうど良い時間になっていました。
「晩御飯どうする?」
お買い物を一緒にすれば自然と仲が良くなるものでお互い敬語なしでしゃべれるようになっていました。
「うーん。あんまり評判のお店聞かないんだよね」
「じゃぁちょっと調べてみようかな」
私はそう言って掲示板を開きます。
『『雷精の里』でご飯の美味しいお店しりませんか?』
掲示板に書き込みしばらく待ちます。
数分クルミとしゃべり、掲示板を再び開くと何件か返信が来ていました。
『マジレスすると、宿屋の飯が上手い』
『お城の横らへんにあるプレイヤーの店は普通に旨い。でもぼったくりじゃねぇかって思うくらい高いよ』
『あそこも美味しい。ノドグロっていうNPCの定食屋。男ならたぶん食いきれるだろ』
うーん。ノドグロっていうお店に少し惹かれますが、推察するにたぶん量が凄いんでしょうね。プレイヤーの店に行ってみますか。
そう結論を出した私は、クルミに伝え、お店まで歩きます。
「あっここかな?」
それほど遠くない場所にあり、人が多く出入りしていたのですんなりと見つけられました。お城に遊びに行っている時は見つけられなかったんですけどね。
「じゃぁちょっと入ってみよっか」
「そうだね」
クルミと二人で店に入るとすぐに席に通され、メニューが出てきます。
おお。中華料理ですね。
「初めて見る料理ばっかり。チェリーは知ってる?」
「うん。外の人達はみんな馴染みのある食べ物だよ」
「そっか。この麻婆豆腐って何?」
「それはね。豆腐をちょっと辛く味付けしてある食べ物だよ」
「とうふ?」
「とうふ。豆から搾った汁を固めた食べ物だよ」
「うーん。すこし食べてみたいけどちょっとこわいかな」
「なら私が注文するから少し食べる?」
「いいの?」
「いいよ」
「やった!」
うん。全部上げてもいいかな。実際、私麻婆豆腐好物なので全部はあげないですけど。
結局クルミは炒飯と餃子を頼み、私は麻婆豆腐と杏仁豆腐を頼みました。
出てきた食事を二人で堪能し、私の麻婆豆腐を食べて唇を真っ赤にしたクルミに杏仁豆腐をあーんしてあげました。
食べ終わり、お腹をさすりながらお店を出る頃には、宿屋に帰るのにちょうど良い時間になっていました。
クルミを連れて宿屋に帰り、私も少し早いですがログアウトして就寝することにしました。
その旨をパーティーチャットで伝え、ログアウトします。
現実に帰ってきた私は、現実の身体にも食事を与え、シャワーを軽く浴び、ベッドにもぐりこみました。
翌朝、目を覚ました私は、飽きてきた自動調理機の食事を胃に詰め込み、<Imperial Of Egg>にログイン……する前にTACを起動し、そちらにログインします。
TACにログインした私は、すぐに秋葉原まで移動し、家電量販店へと向かいます。
専用端末を買うことができた、私にとっては命の恩人に等しい、家電量販店へと足を踏み入れ、6階にある調理器具売り場まで昇ります。
私は自動調理機の拡張を買いにここまでやってきました。
フロアを歩き回り、今置いている自動調理機と同じ型が売っている場所で立ち止まり、眺め始めます。
しばらく唸っていると、店員、おそらくはAIです、が近くまで来て声をかけてくれました。
「何かお探しですか?」
「えっと。この型の自動調理機を使っているのですが、少し味に飽きてしまって、拡張とかで何とかならないかなと思いまして」
「かしこまりました。拡張ですと、こちらですね」
そう言って店員が別の場所まで案内してくれました。
「こちらの拡張はあちらのメイカー様の物でしたら全て対応しております。コース調理、中華料理拡張、日本食拡張などなどたくさんございますのでご覧ください。なにかございましたらこちのブザーでお知らせください」
「あ、ありがとうございます」
去っていく店員に感謝を伝え、私は拡張を眺めます。
確かにたくさんの拡張がありますね。
コース調理とかジビエ拡張とかはいらないですね。中華料理拡張は少し欲しいかもしれません。日本食拡張ではそばやうどん、てんぷら等もできるみたいなのでこちらも欲しいですね。もう一つ私の目を引いたのはスイーツ拡張でした。
スイーツなどは冷凍のものを常温で解凍したり、電子レンジ等の簡易加熱装置等ですぐに作れるものです。それをわざわざ自動調理機にさせるということはそれなりの価値がありそうですね。
吊るしてあったサンプルを眺め、中華料理拡張、日本食拡張、スイーツ拡張の購入を決め、ブザーを鳴らし店員を呼び出します。
「何かお困りですか?」
「いえ。こちらの中華料理拡張と日本食拡張、スイーツ拡張を購入したいのですが」
「かしこまりました。設置はご自分でできますか?」
「いえ、一度もやったことがないので不安です」
「当店からスタッフを派遣してとりつけることも可能ですが、如何しますか?」
「えっと……お願いしたいのですが、私VR世界にいる時間が長いのでもしかして出られないかもしれないです」
「でしたら、こちらで取付方法を覚えていきますか?」
おお! そんなこともできるのか! さすがVRのお買い物。
「ではお願いします」
「はい。では転送しますね」
「はい」
そう返事をすると倉庫のような場所に転送されました。
「ではこちらには先ほどの機種の自動調理機をご用意致しました。まずは私が説明しながらやるのでご覧ください」
「はい」
「では行きますね。まず電源を一度切ります。次にこちら背面のロックを解除します。そうすると上部に自動調理機用冷凍食補充場所があります」
『裏からだとこんな感じなんですね」
「仕組みは意外とシンプルですよ。そしたらこちらの拡張を取り出しまして、ここのコードを上部のスロットに差します」
「はい」
「以上です」
「えっ? 簡単すぎません?」
「簡単ですよ。後は内部に拡張が4個置けるスペースがありますので、そこに収めて、背面を閉じ、電源を入れるだけですね」
そう言って店員が電源を入れると、機械音声で拡張が追加されたことを告げてきます。
「では一度やってみてください」
「分かりました」
店員さんの説明通り行うと意外とスムーズにでき、それほど手間ではありませんでした。
「4個分の収納があるんですよね?」
「初期ですと4個分ですね。そちらも拡張することができます」
「じゃぁ3個だとちょっとあれだし、もう一つ何か買おうかな」
「お客様は中華料理拡張と日本食拡張、スイーツ拡張ですよね? でしたら洋食拡張等如何でしょうか。ここだけの話ですが、店員の中で神フォーと呼ばれているカスタマイズです」
「買います。すいません。AIだと思ってました」
「最近のAIはほんと区別つきませんからね。私も現実の方で働いてた時の上司がAIでびっくりしました」
「それはびっくりしますね」
「ですよね。ではお会計どうしますか?」
「端末からそのまま支払いしますね」
「かしこまりました。ではこちらの手形にタッチをお願いします」
「はい」
チンチロン、と会計が済んだ事を知らせる音が鳴り、店員と配達の時刻を相談します。
「本日ですと……あっ。今ちょうど出る便がありますね。端末のデータですと30分ほどで到着すると思います」
「おお! 早いですね。こんなことなら朝ごはん食べる前に来ればよかったです」
「あはは。では設置頑張ってくださいね。またのご来店をお待ちしております」
「ありがとうございました」
私もお辞儀を返しつつ、一度<窓辺の紫陽花>のホームへと飛び、そこで落としました。
現実に戻った私は少しそわそわした気持ちを落ち着けつつ、到着の時間をまちます。
ガッコンガッコンとコンテナを搬入する音が聞こえました。
リビングのソファーでだらーんとしていたのですが、すぐに立ち上がり、コンテナを引きずってキッチンの自動調理機の近くに置きます。
他のコンテナも同様だったのでそれを都合4回繰り返し、引き込みを完了します。
「さて……」
私はそう呟き、先ほどVRでやった通りに電源を落とし背面を外します。
順番にコードをつなぎ、収納します。
そして背面を再び装着し、拡張が完了しました。
「これで良し」
明日からバリエーションが増えますね。
音声端末を使い4個の拡張分の冷凍食を各5食の計20食注文し、ウキウキ気分でベッドに戻り、<Imperial Of Egg>にログインしました。
to be continued...
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