覆面作家~悲しき覆面作家
白鳥はスマートフォンと鞄を持ち、外に出る。
「もしもし?」
「ああ。白鳥さん?お疲れ様です」
由比ヶ浜警部は白鳥を労った。
「はい。警部。どうされました?」
「真田有希子殺害の犯人についてです」
「そうですか」
白鳥は何となく察しが着いた。
「ええ。解りましたよ。けれど、白鳥さんならもう気付いていますよね。犯人は秋山大翔です」
由比ヶ浜警部が言った。
白鳥はやはりなと思いながらそれを聞く。
「ええ。薄々。けれど、決定的証拠は何だったんですか?」
「真田有希子が殺害された時刻は午後の五時三十分でした。その前に秋山が真田のマンションに入っていくのを目撃した人がいました。
彼は自分が逮捕されても構わないかのようないい加減なアリバイを言ってきました。
「自分はさっきまでコンビニにいて、彼女を尋ねたら死んでいた」と。けれど、コンビニ店員は誰も彼を目撃していない」
白鳥は由比ヶ浜警部の説明を聞いた。
秋山は真田有希子を殺害。白鳥はその動機について考えていた。
白鳥が由比ヶ浜警部からの話を聞いていると、秋山が車から出てくる。
「もう解ってしまいましたよね」
「ええ」
白鳥は、由比ヶ浜警部との電話から耳を離して言った。再び、電話を耳に着ける。
「警部。また後で、架け直しますね。」
白鳥は電話を切る。
「少し車の中で、話しましょう」
「解りました」
白鳥は秋山に促され、車に再び乗る。
少しの沈黙が流れた。秋山が言う。
「僕が犯人で間違いないです」
「聞きました」
白鳥は秋山を見る。彼の表情は特に変化はない。
「あの、冬山つばさの件ですが。「冬山つばさ」及び、「春山つばさ」の正体は秋山大翔さんではないでしょうか」
白鳥は意を決して言った。
秋山は黙る。少ししてから、笑う。
「ご名答。さすが探偵ですね。僕が冬山つばさですよ。二十五歳の時に、本名も素性も隠して応募しました。幸運にもそれが賞を獲りました」
秋山の表情はスッキリしていた。全てを終えるようだ。白鳥は静かに秋山の言葉を聞く。
「出版社に出向く際も、「冬山つばさ」の代理人と偽りました。覆面作家になることで、ストレスを発散。
僕が男性にも関わらず、女性と勘違いして送られるファンレターにも奇妙でした。それと同時に快感でもありました。けれど、出版社が求める内容の作品を書く気が起きなくなりました」
白鳥は話す秋山の横顔を見る。
秋山が少しだけ可哀相に思えた。彼は再び、白鳥のほうに顔を向けて笑う。
「だから、筆を折りました。ところが、婚約者の有希子は、僕が「冬山つばさ」と気付いたのです。それを知った彼女は僕を軽蔑した。更には脅すようになったのです」
秋山は上着から煙草と、ライターを出す。
煙草に火を着け、それを吸う。
秋山は煙草を灰皿に入れ、話を続ける。
「ばれたら、秋山グループの存続に関わると思いました。だから、今回のことを思いついたのですよ。架空の春山つばさを作り、あたかもそれが殺したかのように」
白鳥は秋山を見る。殺人は肯定できない。
しかし、彼の抱えていたものは相当なものだったのかと思えた。
この告白自体も本当はしたくなかったのではないかと思えた。
秋山は口を噤む。沈黙した車内が数分間続く。
白鳥はどんな言葉を掛けたらいいのか解らなかった。秋山が言う。
「巻き込んですいませんでした。僕は自首します」
秋山は車を警視庁に走らせた。
覆面作家~悲しき覆面作家(了)
覆面作家~Anonymous Writer 深月珂冶 @kai_fukaduki
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