覆面作家~美しき依頼人

秋山は、自身の車でマンションに来ていたらしい。

その車はトヨタのプリウスだった。


黒々とした車体に煌びやかな光沢。スポーツカータイプだった。

白鳥は秋山への不信感が増す。

この人は一体何がしたいのだろうかと思えた。


車に乗り込むと、秋山が運転する。

白鳥はその横顔を見た。

綺麗な横顔と、上品な物腰。散臭さを感じる。

それは、講徳社の「冬山つばさ」の件を聞いた辺りから思えてきた。

 更には、自分にストーカーの件での依頼。

 依頼をするわりには、依頼先の詳しい情報を見ずに実行。


これらも不信感の要因だった。白鳥が見ているのに気付いたのか、秋山は笑う。


「どうしたんですか?」

「真田有希子様がお亡くなりになったわりには、あまり悲しんでいないような」

「そうですか。確かに悲しいです。でも、心にぽっかり穴が開いてしまったというか」


秋山は顔を曇らせる。

その眼には涙が出ているようだった。

白鳥は余計なことを言ってしまったと後悔した。


「すいません」

「いいんです。昔からそうです。祖父が亡くなった時も、そんな感じでした」

 

秋山は無理に笑顔を見せながら言った。車は丁度、信号で止る。

信号を待っている間、しばしの沈黙が流れた。

 秋山から口火を切った。


「冬山つばさのことはどうなりました?」

「そうですね。お伝えすべきでしたね」


白鳥は秋山に知り得た「冬山つばさ」の情報をくまなく伝えた。

秋山は驚きつつも、真剣にその話を聞く。

けれども、白鳥は何となく、秋山への違和感が拭えなかった。

嘘を着いているのではないかと思えてきた。


白鳥が秋山に「冬山つばさ」のことを話し終えると、秋山が言う。


「お食事は、和食でいいですか?」

「はい」


白鳥は秋山の顔を見た。秋山は特に表情が変わらなかった。

しばらくすると、白鳥のスマートフォンが鳴る。

電話の相手は、由比ヶ浜警部だった。


「すいません。携帯に着信があるようなので、出て良いですか?」


白鳥がそう言うと、秋山は承諾する。


「どうぞ。車を路肩に停めますね」


秋山は車を路肩に停めた。

白鳥は電話に出るために車を降りる。


覆面作家~美しき依頼人 (了)

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