覆面作家~殺された婚約者

白鳥は窪塚との話が終わった後、再び、タクシーを拾う。

白鳥がタクシーに乗り込んで、少し経ってからだった。着信があった。

    

着信は、秋山あきやま大翔ひろとからだった。白鳥は電話に出る。


「もしもし?」

「あ。白鳥さん?あの。大変なことが」


電話口の秋山は狼狽ろうばいしている様子だった。

それもかなり深刻な声色だ。


「どうされました?」

「有希子が殺されました。首を絞められてです。どうしたらいいか」


白鳥は最悪な事態に発展したと思った。


「警察には連絡しましたか?」

「はい。今、警視庁の刑事さんと共にいます。場所は、有希子のマンションです。場所をお伝えしますね」

「はい。解りました」


白鳥はこの最悪な事態を予測していた。

けれど、実行する冬山に恐怖を感じた。


秋山から教わった真田有希子さなだゆきこのマンションに向かう。

マンションの名前は、フロンティアヒルズ。

講徳社があるB区と同じ区内。だから、すぐに着くことができた。


時刻は、午後の六時三十八分。

夕方の街は、仕事が終わり、帰宅する人でごった返していた。白鳥は、タクシーから降りると、マンションのエントランスに向かう。

既にマンションの下には複数の警察車両と、野次馬やテレビリポーターなどの報道陣があふれかえっていた。

その中をかき分けていく。


「すいません」

 

白鳥は警視庁刑事部捜査一課に知り合いの警部がいる。知り合いの警部の名前は、由比ヶ浜ゆいがはま敬一けいいち


先ほどのタクシーで由比ヶ浜警部に連絡を取っていた。

幸い、真田の殺害事件の担当は、由比ヶ浜警部だった為、話を着けたのだった。

 エントランスを抜け、警察の規制がある中、「由比ヶ浜警部と知り合いの探偵の白鳥優子」と申し出て、通してもらうことが出来た。真田の部屋は七階の七〇一号室。


エレベーターで七階まで上がる。

エレベーターから降りると、すぐに七〇一号室は見つかった。

立ち入り禁止の黄色いテープはでかでかと貼られている。

複数の警察官、鑑識官が居た。

白鳥に気付くと、一人の警察官がやってくる。


「白鳥優子様ですか?」

「そうです」

「案内いたします」


警察官の男は、二人がいるところに白鳥を案内した。由比ヶ浜警部と秋山は、七〇一号室の外の廊下に居た。


秋山は、由比ヶ浜警部に自分が有希子を発見した当時の状況を説明しているようだった。由比ヶ浜警部は、白鳥に気が付くと軽く手を振った。


「白鳥さん。お久しぶり。まさか、白鳥さんの依頼人と遺体発見者が同じだったとは」

「お久しぶりです。警部。前回の事件以来ですので、二か月ぶりではないでしょうか」

「白鳥さんは由比ヶ浜警部とお知り合いだったんですね」秋山は驚いていた。

「探偵をやる前は、警察官をやっていたので」

「そうなんですね。知らなかったです」


白鳥のプロフィールは、「白鳥探偵事務所」のHPに全て掲載されている。

それを見ずに依頼したのかと思い、白鳥は驚いた。


「ストーカー」で悩んでいるならば、それなりに成果を上げているか確認して依頼するものなのではないかと思った。

白鳥は、秋山自身への不審感が湧いた。


「ホームページ見ませんでした?」

「ええ」


秋山は頭を掻いた。白鳥は彼の顔を見る。

先ほどの狼狽具合はどこに行ったのだろうかと思えた。

婚約をした女性が死んだのに、あまり悲しんでいない。


「じゃあ、警部さん。あとは宜しくお願い致します」


秋山は由比ヶ浜警部に挨拶をすると、白鳥の手を取った。


「どういうことですか?」


 白鳥は呆気にとられた。由比ヶ浜警部は言う。


「一応、秋山大翔さんの証言は取れました。

あとは、警察から何かしらの言及がある場合はまた連絡しますので」

「僕はもう関係ないですよね?」

「関係ないとは断言できませんが」


由比ヶ浜警部は何でもないように言った。


白鳥は由比ヶ浜警部の顔を見る。彼は白鳥と目が合うと、目で合図してきた。どうやら、彼は何かを掴んでいるようだった。


「白鳥さん。今からお食事でもどうです?」


秋山は白鳥の顔を見る。


「ええ?」

「行ってきたらどうです?白鳥さん。事件の概要については、また連絡しますね」

「はあ。解りました」


白鳥は由比ヶ浜警部に促されて、秋山と共に現場を後にした。


覆面作家~殺された婚約者 (了)

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