覆面作家~冬山つばさの消息 ①
白鳥は、秋山と別れると、時刻を確認する。
時刻は午後一時四十五分。
真夏の炎天下は、額に大量の汗が出た。
手の甲で汗を拭う。
タクシーを拾った。
白鳥はそれに乗り込むと、真っ先に講徳社に向かう。タクシーの運転手に行先を告げる。
「東京都B区音田2-12-21。講徳社まで」
タクシーの運転手は了解し、伝えた住所まで向かう。 運転手はバックミラーから白鳥を見る。
「お客さんは何をやっている人なの?」
「そうですね。しがない探偵業ですよ」
「ええ!探偵なの?」
運転手は驚いているようだった。
白鳥はそんなやり取りに慣れている。
探偵と言っても主な仕事は、興信所と同じようなものだ。
身辺調査だったり、浮気調査、ペット探し等々のほうが多い。
小説に出てくるような、殺人事件をさらっと解決してというのは少ない。
「探偵って殺人事件ばかりを解決しないです。それに現実は結構、地味ですよ」
「そうですか。講徳社に行くってことは、何か用です?あ、推理作家の冬山つばさを知っています?」
白鳥はここで冬山の話題が出るとは思わず、少し驚く。
「冬山つばさ。知っていますよ。全く姿を現さない覆面作家ですよね」
「それです。私は結構、彼女のファンでして。けれど、ここ二年は作品を出していないです。凄く残念で」
運転手は冬山のファンだった。
白鳥は冬山が二年間も作品を出していないことを初めて知った。
「出していないのですか?」
「そうですよ。彼女は連載が終了した作品の単行本を出してからなので」
「そうなんですね」
「知らなかったんですか?」
運転手は少し残念そうにした。
白鳥はその話が気になり、運転手に聞く。
「何の作品を後に、出さなくなったのです?」
「確か『
運転手は思い出しながら言った。
白鳥はその『陽炎』とはどんな作品か気になった。
「『陽炎』はどんな作品ですか?」
「それは読んだほうがいい。面白いから。内容は覆面作家の男が実は女だったって内容だよ」
運転手は冬山の話が出来て、嬉しそうにする。
運転手が冬山に詳しいと思い、白鳥は更に話を引き出した。
運転手は白鳥が冬山のファンだと勘違いした。
白鳥は改めて、冬山つばさという作家がどんな作家か、ある程度知ることが出来た。
熱狂的で信者的なファンがいることは理解できた。
社会派ミステリーや、探偵小説を書いている人がどんな人か解らない。
冬山は気難しい人間なのではないかと思えた。
タクシーはB区音田2-12-21に着いた。運転手は車を停め、メーターを止めた。
「お待たせ。料金は二千三百円ね」
「では。これで」
白鳥は財布から二千五百円を出した。運転手はそれを受け取ると、二百円のおつりを手渡す。
「ありがとうございました。冬山さんに会えるといいね」
「そうですね。こちらこそ、冬山さんのことを教えてくださってありがとうございます」
白鳥はタクシーから降りると、講徳社に向かう。
覆面作家~冬山つばさの消息 ① (了)
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