第二章 歴史的関りの深い鶴岡八幡宮
第6話 車と江ノ電で目的地へ
「わぉ…海が綺麗ね♪」
レンタカーの車窓から見える風景を眺めながら、裕美が呟く。
「
「えぇ、本当に…」
その後、助手席に座る健次郎の
2018年5月の上旬―――――――世にいう“ゴールデンウィーク”に突入し、神社巡りの次の目的地たる場所に向かっていた。
次の目的地は、鎌倉にある鶴岡八幡宮だ。神奈川県に位置するこの神社は、行こうと思えば電車でも行ける距離ではあるが、電車で行くよりも若干車で行く方が早いため、レンタカーを借りて行く事となったのだ。
「お前ら、景色を眺めるのはいいが…あんまり騒がしくするなよ」
一方、今回運転手を務めてくれている
それを聞いた私と裕美は、その場で口を閉じる。
「まぁ、そうカッカするなよ小川!LINEでも伝えた通り、俺も適宜運転を交代するからよ!」
そんな彼を、健次郎が宥めていた。
私以外の
私は、彼らのやり取りを見ながらそんな事を話していた。
先月に友人達と会った際には話題にあがらなかったのでしなかったが、健次郎も運転免許を持っている件は、今回鎌倉へ行くのが決定した段階で、初めて知った事実なのである。
そうして私達を乗せた車は、渋滞にはまりつつも、目的地へと近づいていく。
その後、私達は鎌倉より少し手前にある、七里ヶ浜で車を降りる事になる。鎌倉へ直接行かずに、
「パーク&レールライド??」
あまり聞き慣れない言葉を聞いた私や裕美は、瞳を数回瞬きする。
「駐車場に車を停めて、電車やバスで目的地へ向かい観光する事。元は海外で実施されていたサービスらしくって、
すると、車等の手配をしていた
「まぁ、
一方で、
「ほほぉ…。パーク&レールライドという言葉は、今回で初めて耳にしましたね!
人の世は、時が経つにつれて便利になるものですね…」
それを見た
「あとは、鎌倉の場合…。車で市内中心部へ行くと、かなりの渋滞になるから、それを避けるために七里ヶ浜の駐車場を利用しようという事にしたんだろ?」
「…まぁな」
その後、場を察したのか、健次郎が
そして、
「いずれにせよ、ここにいる全員が江ノ電乗った事ないじゃない?それが乗れるのも、今回の楽しみの一つだから、早く行きましょう!」
“今はひとまず出発しないと時間がなくなる”と考えた私は、男性二人+一柱(=テンマの事)に声をかけ、出発を促す。一方で裕美は、鎌倉のガイド本を読むのに集中していたため、彼らの話をほとんど聞いていないのであった。そのため、後で
江ノ電の七里ヶ浜駅で、サービスでもらえる切符を受け取った後、鎌倉行きの電車に私達は乗る。
「わぁ…。本当、線路ギリッギリの
向かう途中、車両から見て本当に目と鼻の先にカフェらしき店舗が見えた際、私はその至近距離に驚いていた。
「近年ではどうやら、この”江ノ電が見ながら食事ができる“というのを売りにしたカフェが増えているらしいよ!」
電車が軽く揺れる中、ガイド本を読む裕美がそう語る。
「そういった趣があるから、江ノ電は人気があるのかもな…」
すると、珍しく
「…小川様は、気分の浮き沈みが激しい方なのですね」
「まぁ、それは否定できないかも…」
隣で手すりにつかまるテンマが、私の耳元でこっそりと囁く。
言っていた内容が今回はその通りと感じていたため、私は同調の意を示したのである。
その後、鎌倉駅を降りた私達は小町通を経由し、鶴岡八幡宮の参道でもある
「さて、今回の目的地である鶴岡八幡宮。ご祭神は応神天皇や比米神。あとは神功皇后といった、“神”より“人”を祀った神社になりますが、この国においては、歴史的関わりの強い
段葛に着いた後、テンマによる解説がいきなり始まる。
「色んなお話ができると思うので、歩きながら語りましょう」
「はぁ…」
テンマが歩くよう促すと、いつもはテンションが高めな裕美も黙り込んでしまう。
周囲を見ると、私達と同じように鶴岡八幡宮の方向に歩いていく人もいれば、反対側から鎌倉駅方面へ歩いていく人もいる。また、この段葛は地面よりも少し高めの場所に位置し、その両端には車道と大量の車が渋滞をしているという状態だ。
「例えば、この参道・段葛。4月頃にはソメイヨシノが満開となる桜の名所である一方、時の源頼朝が、妻・政子の安産を祈願して整備した参道と云われています」
そう語るテンマの視線は、私の方に向いていた。
「え…」
すると、私の視界において異変が起きる。
私以外の存在―――――――――友人達や行き交う人達の色が、灰色になっていたのだ。ゆっくりと動いてはいるので時間が止まった訳ではなさそうだが、”色を持つ存在“が自分だけとなっていた。
「あれは…」
異変に戸惑う中、私の視界に入ってきたのは――――――――――萎烏帽子を被り小袖姿の男性と、小袖を身に着けお腹が少し大きくなっている女性の姿だった。
男性の方には髭を少しだけ生やしており、嬉しそうな笑みを浮かべながら女性と歩いていく。一方の女性も、幸せそうな表情で両手をお腹にあてながら、ゆっくりと段葛を歩いていく。
もしかして、あれって…
遭遇した男女が誰かと考えている内に、二人は私とは反対方向へと歩いて行き、その姿が薄れていく。
「おい、
「健次郎…?」
その後、健次郎の声によって、私は我に返る。
「どうしたの?目を丸くして、何かに驚いているように見えたけど…」
隣では、心配そうな表情をした裕美が立っている。
「…美沙様。ご覧になられたようですね?」
「……はい……」
すると、先頭で立ち止まっていたテンマがクスリと笑いながら、私に問いかけて来る。
あまりに唐突だったので、私は思わず敬語で応えていた。
「仲睦まじい夫婦の姿…を、垣間見たの。テンマの話から察するに…。あれは、源頼朝と北条政子ではないかと…」
私は、先程見た光景の中でも、お腹の大きい女性の事を思い返していた。
「成程。
すると、ずっと黙っていた
「小川様、見事でございます」
それを聞いたテンマは、満足そうな笑みを浮かべながら、手を合わせて拍手をしていた。
「以前訪れた神田神社とは異なり、
「小中学校の歴史で習ったから、多少は知っていたけど…。あれ、という事は…!」
テンマの話を聞きながら腕を組んでいた裕美は、何かを思い出したのか、鞄に入れていた鎌倉のガイド本を取り出す。
「今いる場所が、ここだとすると…。もしかして、本宮でお参りするまでに、今みたいな現象が起こるって事…?」
裕美は、ガイド本を片手に恐る恐るテンマへと問いかける。
それに気が付いたテンマは、いつものポーカーフェイスで普通に答える。
「おっしゃる通りです、
その返答に対し、男性陣は少し不服そうな表情をしていた。
「ま…まぁ、今日は私と裕美は鎌倉で1泊して帰るから、別に大丈夫よ!」
少し眩暈を感じながらも、私は気丈そうな声音で二人に“大丈夫”という意志表示をする。
因みに今回も健次郎は翌日に仕事があるため、鶴岡八幡宮の参拝が終わった後に東京へ戻る事となっている。一方で車を手配してくれた
「それに、八幡宮の参拝を終えても宿泊から帰宅するまで私も一緒にいるから、大丈夫でしょ!」
私の意図をくみ取ったかは定かではないが、裕美が私をフォローするような発言をしていた。
「…さて、岡部様や小川様は時間の制限があるでしょうし、そろそろ次へ進みましょう」
テンマの
これだけ嫌な視線を向けられているのに、全く動じないテンマって本当に、ただの付喪神なのかな…?
この絶妙な空気の中、私はそんな事を考えていた。
そうして私達は、約500メートルあるとされる段葛を進んで行く。テンマの言う通り、本宮にたどり着くまでの間、前回以上に濃厚な“
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