冬_すれ違い【1】
さくらさんはそのまま3日、学校を休んだ。僕らの誰にも連絡はなかった。僕らのほうからも連絡をしていない。返事が来なかったとき、傷つくのは自分だとわかっているからだと思う。僕がそうだった。
もう、言ってしまっただろうか、あの人は。僕らが知っていたことを全て、彼女に言ってしまったのだろうか。
口止めはしていないのだ。彼女には言わないでほしい、と言うべきだったのだろうか。あの人が言わなくても彼女は悟ったかもしれない。きっと彼女のお父さんは接し方を変えただろう。あの話を聞いてそのままだったら逆に疑う。この人は全て知っておいて放っておいたんじゃないかと。
彼女が来なくても僕らは屋上に集まった。詳しく言えば屋上前に。段々寒くなってきてそろそろ屋上はきついだろうということになったからだった。
「担任は体調不良って。まあ、まだ治ってない可能性もあるしみんな納得してるけどね」
「そんなもんだろ」
2人は最近やけくそ気味だ。適当とまでは言わなくてもどこか雑で。その分壁がすべて取り払われたかのように思える。例を出すなら呼びかた。倉坂さんはいままでどちらにも”くん”をつけていたけど、野中・木村になった。僕は小心者なので倉坂さんを呼び捨てになどできない。ただ、いつまでも名字に”さん”は・・・ということになったので彩子さんになった。俊くんはそのまま倉坂と呼んでいる。
結局さくらさんの為に集まった三人はさくらさんが抜けたと同時に更に仲を深めた。抜けたと言ってもただ今来ていないだけではあるけど、そこは諦めモードが漂っているので口にしない。さくらさんという鎖をなくしたらみんなバラバラに、俊くんは今まで通りだけど倉坂・・・彩子さんとは話さなくなってしまうのだろうと思っていたので正直ほっとしたところはある。
「最近どうなの、勉強。野中と同じところに行くなら頭足りないでしょ」
「足りなくねーわ」
「足りてないね」
「おい春太お前まで・・・」
さくらさんのことはあまり会話に出ない。必要以上のことは。それぞれ傷を抉ることはわかってるからだ。友達を自ら傷つけにいくなんて心無いことはしない。
最近の話題はめっぽう進路が中心。特に俊くんの。
彩子さんは自分のレベルを把握して、そこに合う大学・やりたいことがある大学を選んでいる。外れはない。僕も少し頑張って届くところにした。つまり、僕が頑張るということは、勿論俊くんは更に頑張らないといけないってことで。現実から目を背けたくなっているらしい彼だけど、これじゃあ進路が決まる前と同じじゃないか。スポーツで行く分、少しは楽だけど。大学に入ってついていけなくなって辞めるのだけは僕が許さない。
「まあこうなると思ってたけど」
見過ごしていたように彩子さんは毒を吐く。
「うっせ」
捻くれても口に食べ物を運ぶスピードは変わらない。体は正直だなあ。
避けているようで気にはしているので、時に話題に上ってしまうもので。
「野中と同じところに行くって、やっぱりあの場凌ぎの嘘だったのかなあ」
その時何の話か理解して返事をするのに必ず間が空いてしまう。
「・・・そうかもね」
僕がずっと思っていたことを彩子さんも気にしていたらしく、やっぱり僕らじゃ彼女の未来は見れないのだろうと思ってしまう。
彼女の未来に僕がいなくて、彩子さんがいなくて、俊くんもいなくて。その姿が想像できないのは、僕がまだ未練を持っているからなのだろうか。彼女の隣にいたいと願ってしまっているからなのだろうか。
「一番側にいるのは私だ!・・・って、思いたかったんだけどなあ」
箸を高々と掲げてすぐに下ろす彩子さん。やっぱり大分僕らに気を許している。前だったら俊くんがそんなことしたら注意していたのに。
「きっとそうだよ。今も、これからも」
「そう思いたいけどさ・・・こうなっちゃうとなー」
彩子さんのお弁当はいつも四人分。今日こそは、って思って作ってきて、がっかりして俊くんに2人分渡す。席も3人しか居ないのに穴があいていて。
「お前はあいつが学校来たら教室で会うだろ。春太はここに来ないと会えないけどな」
箸でびしっと彩子さんを指す俊くん。
「俊くん、箸は・・・」
「同じ空間にいたって、話しかける勇気ないかもな」
元気がなさ過ぎて注意すらしない彩子さん。実は今まで僕らの前で気を張りすぎただけで素は適当なのだろうか。
暗い空気に予鈴が鳴り響く。明るい音すら暗く聞こえるのはもはや病気かもしれない。ぼーっとする彩子さんの代わりにお弁当を片付ける。彼女が来るまでこの状態が続くのだろうか。彼女が来ても彩子さんが話さなかったら、もっとひどくなる?これ以上ひどくなるってどうなるんだろ・・・。
怖いの見たさもありつつ、そんな彩子さんは見たくない気持ちもありつつ、ゆっくりと教室に戻る。
何が正解なのかがもうわからなくなっていた。
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