秋_無力【3】



 走って、結局いつもの屋上へと来てしまった僕。ここ以外に行く場所ないんだろうか。かくれんぼしてもすぐに見つかるんだろうな、僕みたいなタイプは。

 僕は居場所を探していたのかもしれない。それで見つけた。さくらさんの隣にいる僕。そんな自分をどこかで気に入っていたのかもしれない。

 そんなに自分が居場所を探すような人間だとは思わなかった。友達をうまく作れない僕は昔から基本1人で。俊くんは僕のそばにいてくれる。でもそれは幼馴染で、ある程度距離感がわかっているから。彼は常に人に囲まれているから、そのそばが僕の居場所になることはなかった。

 あの日彼女に人生をくれと言った。それは僕の口から不意に出た言葉で、でも今は後悔していない。辛いことはあるけど、あの日であったこと自体は後悔しない。あの日そう言ったのが、自分の居場所をつくるためかもしれないなんて言ったら彼女は呆れてしまうだろうか。知ってたと笑い飛ばすのだろうか。どっちにしろ、このまま彼女の隣にはいられないかもしれない。僕は彼女にとって最悪の結末を自ら起こしてしまった。

 目覚めた時、お父さんがそのことを知っていると彼女が知った時、それを知っていたのは僕しかいなくて、つまり消去法なんて使わなくても僕が悪いことになる。

 もうこの際開き直るしかないのだろうか。お父さんがこのことを知ったことで、きっと彼女がお母さんと2人きりになることはなくなるだろう。そうすればお母さんの彼女への当たりだってなくなる。もう、僕が側にいる必要はなくなる。

 最後に挨拶くらいできるだろうか。友達を辞めてしまう前に、彼女の笑顔を見ることは叶うのだろうか。

 僕は、はやまってしまったかもしれない。

 頭を抱えてうなだれていると、屋上の扉が開き2人が出てきた。

「さくらちゃん今起きて、お父さんと帰って行ったよ」

「そっか」

 彼女に何も伝わらないことを願う、さっきとは裏腹な僕がいる。そんな僕を見抜いたように俊くんは僕の横に座り、また頭に手を置いた。年下扱いされている気がする。泣いてる子を慰めるような。

「さっきはごめんね、怒鳴っちゃって」

 倉坂さんが俊くんとは逆の僕の隣に座りながらそう言った。川の字的な座り方になる。可笑しい絵面ってこのことだ。

「ううん・・・僕がカッとなっちゃって、逆にごめん」

「あんたが言ってなかったら多分私が言ってたから、スッキリした・・・この場合はありがとう、かな」

 僕の謝罪に被せ気味でそう言った倉坂さん。その言葉には熱があって、本当にそう思っているのだろうと感じさせた。その言葉で救われる。さくらさんに捨てられたとして、この2人にも見捨てられたらさくらさんの代わりに僕がここから飛び降りてしまいそうになるほど辛い。

「お礼なんて。役に立ったならよかったよ」

 はは、と笑う僕を見た倉坂さんが呟いた。

「十分役に立った・・・これで何かが変わればいいんだけど」

「そうだね」

 みんな、今は不安でいっぱいなのだと思う。僕が恐れるように、お父さんからさくらさんに今日あったことが伝わらなければいいと思っているし、もし伝わったとしてもそれで彼女のそばにお父さんがいてくれるならいいと思っているし、そのせいで僕らが友達から外れてしまったとしても良いと思ってる。

 さくらさんを思っているからこそ、そう思うんだ。そのことが彼女に伝わればいいな。僕たちが離れてしまったとしても。

 彼女の未来を僕が見れなかったとしても。


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