秋_思い出【4】
文化祭の結果発表を終えて、クラスはとにかく盛り上がっていた。
僕らのクラスが売り上げトップだったのだ。恐らく俊くんのお陰だろうと彼を見ると、焼肉という言葉に異常にテンションが上がっている様子だった。
誰のお陰であろうと、とりあえず食べれれば何でもいいんだろうな、俊くんは。
優勝の賞状を持った俊くんが僕のほうに向かってきた。
「やったな、」
小学生にも見える喜び方に、保護者的な気分になった。
「俊くんのお陰だよ、良かったね」
頬杖を突きながら感嘆の声を漏らすと「いや、お前だろ」と意外な返事が返ってきた。僕何かしたかな?
「パンケーキ美味いって評判だったんだぞここ。俺目当てじゃねーよ」
「でもレシピ考えたの僕じゃないし」
「俺目当てじゃねーよ」という言葉に引っ掛かりつつ、事実として自分ではない根拠を述べていると、佐々木さんがやってきて「アレンジしてたでしょ?あれが良かったんですよ」と俊くんの肩を持つように会話に参加した。
そんな・・・僕の味方はどこへ?
「そんなこと言ったら佐々木さんも裏方だし・・・」
擦り付け合いのようにお互いを褒め始めると、それを見ていた俊くんが雑に会話を終わらせた。
「じゃあ2人のお陰でいいだろ」
「・・・ええー」
俊くんの影響力は半端なものじゃないので強制的に教壇まで連れていかれみんなから「おめでとーー」の言葉をいただいた。
僕は勿論、佐々木さんもこういう場所には慣れていないようで、2人とも小さくなりつつ「あ、ありがとう」と聞こえるか聞こえないかの感謝を述べた。
教室の騒ぎが落ち着いて、担任の「おめでとう!」から始まった挨拶も終わり、各々解散となった。
焼肉に関しては、みんなの予定が会う日に決行することになった。全員が強制参加らしい。
「行くぞ」
「あ、うん」
熱気にやられてぼーっとしていた僕に俊くんが声をかける。今日は部活もないようで、久しぶりに4人で喫茶店に行こうということになった。
「久しぶりだなー」
「そうだね」
俊くんも同じことを思っていて、なんだかうきうきしていた。
あれ、そう言えば。
「倉坂さん優勝狙ってたなー」
僕らが優勝したのを聞いて変に燃え上がっていそうで怖い。恨みはすごそうだ。ただ、僕はずっと思っていた。そのコンセプトでは優勝しないよ、と。
「校内歩いてるときに見かけたけど、あれ何だったんだ?」
「動物カフェだって」
「あれがか?」
「・・・うん」
僕のしばしの沈黙に何かを悟ったらしい。それ以上は何も言わずに押し黙った。それが正解だ。余計な詮索はしないほうがいい。
4人が喫茶店に集合して「久しぶりだね、この感じ」と倉坂さんが言ったことで話が始まる。
「悔しい・・・よりによってなんであんた達のクラスが!」
やっぱりそこか。
僕たちが懸念していた問題に真向に切り込んできた倉坂さん。さくらさんは興味なさそうにグラスの氷をストローで転がしている。特に焼肉に対しての未練はないらしい。むしろ彼女は優勝クラスに与えられる特典をわかっていなかったんじゃないだろうか。
「さくらちゃんの可愛いウサギで確実にお客さんはゲットできたはずなのに・・・」
しいて言うならそこしかとりえがなかったことかな、なんて言えない。
「そこだけだろどーせ」
「言った・・・」
俊くんの勇気に心の中で拍手をするも、倉坂さんの睨みが怖かったので顔を背けた。彼女の睨みは人を呪える。
「まあ僕のクラスは俊くんが看板娘みたいなものだから」
「それはしょうがない」
倉坂さんも納得するほどの俊くんの人気。俊くんは「まだ言うか」的な視線を僕に送ってきているけど。
「文化祭終わったら後は殆どないかな、行事」
生徒手帳をリュックから出して文化祭後のカレンダーを見てみる。
「そうね・・・あ、そろそろ三者面談あるんじゃない?」
「そんな時期か」
その来るべき選択の時期に俊くんが頭を抱えた。そう、俊くんはその日を生きるタイプなので先のことは考えない。小・中は一番近所の学校だし、高校は僕と同じところを選んだ。自分で決めるのは今回が初めてかもしれない。
未来、と考えてさくらさんを見る。その時期が来たとき、さくらさんは何と言うのだろう。その場限りのことを言うのか、もし生きてたらの選択肢がすでに用意されているのか。
じーっと見つめているとさくらさんと目が合った。彼女は僕の考えがわかったかのようにフッと笑った。
「倉坂さんはどうするの?」
一番考えがしっかりしてそうな彼女に聞いてみる。中学校の頃から考えていそうというのは僕の勝手な決めつけか。
「大学に行く。学びたいことがあるから・・・あんたは?」
さすが・・・と感心していて反応に遅れる。
「あ、ああ。僕も大学だよ」
「へえ、意外」
意識せずに出たんだろうな、と思うほどに失礼だ。ふと我に返って「あ、そうじゃなくて」と言い訳をしていた。傷ついた僕の心はそんな簡単には癒せないですよ・・・。
「春太大学行くのか?」
息をしていないんじゃないかと思うほどに突っ伏したままだった俊くんがむくっと起き上がり目を輝かせている。
なんだか嫌な予感がする。中学の時と似通った雰囲気だ。
「そ、そうだけど・・・」
「ほお、そうか」
にやりと不敵な笑みを残した俊くんはまた机に頭をつけた。
「ここまで来たらストーカーよ」
「はは・・・」
倉坂さんの言葉にも反応しそうにない。何というメンタル。こういうところだけは意志が強い。他はブレブレなのに。
少しだけ気まずい空気が流れる。後誰の進路を聞いていないのかはわかる。ただ聞けないんだ。この中の誰も。
ただこのままじゃ意識していることが彼女に伝わってしまいそうだ。満を持して口を開く。
「さくらさんは・・・何か決めてる?」
まさか自分が聞かれるとは思っていなかったんだろう。驚いたように僕を見た。僕だって聞くとは思っていなかったよ。その様子を見た倉坂さんはハラハラした様子だ。
「・・・ハルと同じところ行こうかな」
「お、3人一緒か」
紛らわしいところで会話に入ってくる俊くん。
「えー・・・何かやりたいこととかないの」
もし本当に僕と同じところに行きたいと思ってくれていたとしても、行った先でやることがなかったら意味がない。時間の無駄だ。
僕の行こうとしている大学はバレーが強かったりするので、推薦を使えば俊くんはいけるかもしれない。でも学ぶことがあるかないかじゃ大きな違いだ。
僕の質問に「行って探せばいいでしょ」と答えたさくらさん。
それでいいのか・・・。俊くんと同じになってしまうよ、と本人の隣では言えないけど。
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