夏_不安【4】
「はい」
「え、綿あめ?」
買ってきたものを渡すと、さくらさんは無言で驚いていて、倉坂さんが反応して訝しげに見ていた。やっぱり子どもっぽいだろうか。なんとなく興味ありそうだな、と感じたのは気のせいだったのだろうか。
「ありがと」
彼女は少し微笑んで、綿あめをちぎって食べ始めた。子どもっぽ過ぎない袋を選んだのは正解だったかもしれない。
僕の勝手な思い込みだけど、夏祭りとか、そういう屋台が出るものでしか綿あめを食べたことがない。そういう人は多いんじゃないだろうか。だから、さくらさんは食べたことなのかもしれないと思った。
彼女が欲しがったわけじゃない。僕があげたかっただけだ。
「やるじゃん」と倉坂さんが僕の脇腹を小突く。少し痛かったのは顔に出さず軽く笑うことで返事をする。
口実にしたので買わないわけにもいかず、近くにあった自販機で飲み物を買ってきた。炭酸系が2つとお茶を2つ。
綿あめを食べていたさくらさんはお茶を選び、味の濃いものを食べていた倉坂さんもお茶。俊くんは炭酸が好きなのでそれを選び、僕は余った炭酸を手に取る。
僕の選択は間違えていなかったようで安心した。
それぞれ買ってきたものを食べ終えて、花火がよく見える場所へと移動する。公園にある河川敷にはもう既に様々な色のシートが敷かれていた。
「よし、行ってくるわ」
運動部らしく意気込んだ俊くんはシートをもって河川敷に足を踏み入れた。
すぐに僕らが座れる空間を見つけて場所をとった俊くんは手を挙げて僕らに合図をした。
時間が丁度良く、花火の開始を知らせるアナウンスが聞こえてきた。
「始まる!」
嬉々とした表情でさくらさんの腕をつかみ寄り添った倉坂さん。
空に上がった花火を見て、言葉を出さずに目を輝かせていた。二人を見ていた視線を空に移し、きらきらと輝く花火を見る。
こんな風に来年もまた来たいなんて思うのは傲慢だろうか。願ってはいけないことだろうか。彼女の笑顔を、横で見ていたい。それが迷惑であるとしたら。
「来年も、また来たいね」
倉坂さんの言葉に、さくらさんは無言だった。そこにどんな意味が含まれているのかはわからない。来年はここにはいないと、そう言っているのかもしれない。でも、僕ら3人はみんな同じ気持ちだったと思う。
誰も変わらずここで、4人で。
彼女の横顔は少し悲しそうだった。
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