夏_平和【1】
「もうすぐで夏休みだよ!じゃんじゃん予定立てないと!」
倉坂さんらしからぬ発言で急遽決まった放課後の寄り道。
僕は基本的に学校が終わったら真っ直ぐ帰るか図書室によって帰るかの二択で、傍から見たらつまらなさそうな日々を送ってきた人間なので、寄り道は初めてだった。
俊くんは部活が終わってからの合流ということで、僕らは帰り道にあるお客さんの少なそうな喫茶店に入った。
まず僕は勿論だけど、倉坂さんに寄り道という言葉が似合わなさ過ぎて、聞いたときは驚いた。倉坂さんにはさくらさん以外友人と呼べる人間はいなさそうだったからだ。
喫茶店に入るまでの道のりで隙を見て「慣れてるんだね」なんて皮肉に近いようなことを言ってみると「いや、初めてだけど」という予想外の返事が返ってきた。
それなのにあんなにスマートに寄り道を切り出せるなんて・・・と自分とのスペックの差を見せつけられた気がした。
とりあえず、それぞれやりたいことを言ってみることになった。
先制をきって倉坂さんが提案する。
「花火したいな・・・夏ならではかな、と」
「なるほど」
相槌をとりながらメモを取っていると、「何それ」とさくらさんからツッコミが入った。
「メモ。書き出しとかないと忘れそうだから」
さくらさんはメモという手段を使わない派なのだろうか、なんて想像しつつ理由も一緒に書いていると、じーっとこちらを見つめるさくらさんと目が合った。
「どーしたの」
「ハルってまめだよね」
「そうかな?」
メモをまめだと言うなら、やっぱりさくらさんは記憶派なのだろうと思った。そんなに珍しいことだろうか。まぁ確かに、普通に生活していてこんな会議みたいなことしないか。
「次、さくらちゃんは?」
倉坂さんを進行役として会話は進む。
「私は特に・・・あ、夏祭り行く?」
さくらさんの視線を辿ると、近所で行われる夏祭りのポスターが貼られていた。完全な思い付きだろうけど、夏祭りは人が多いだろうだから、そこにさくらさんが行こうと提案したことには驚いた。
「人混みとか大丈夫なの?」
「駄目って言ったことなくない?」
確かに、と黙り込む。メモ帳に書き足す。僕の勝手な想像でさくらさんは人混みが嫌いなイメージが定着していた。思い込みはよくないな。現実にまで支障をきたす。
「夏祭りかぁー。久しぶりだな・・・」
そう呟く倉坂さんに、「友達がいないからだよね」と勝手に共感する。単純にお祭りが嫌いなだけかもしれないのに。
カランとお店のベルが鳴って、入り口を見ると俊くんが入ってきた。
「俊くん」
「おう」
意外にも早い登場に驚きつつ、場所を知らせるために手を挙げる。俊くんはすぐに気づいて駆け寄った。
俊くんとさくらさんは初対面なので、一応紹介する。僕がしなくてもお互いにそのくらいのコミュニケーション能力はありそうだけど。
「さくらさん、と俊くん」
交互に説明する。
「畠山です」「木村です」と軽く会釈する様子を見守り、俊くんは僕の隣に座る。
さくらさんには「僕の幼馴染も入って大丈夫?」と確認しておいたので、いきなり登場ってわけではないけれど、初対面は結構気まずいかもしれない。俊くんに関しては、さくらさんのことを色々話した後だから。
「早かったね」と気になったことを尋ねると「今日ミーティングだけだった」と俊くんが答えた。なるほど、と納得した。通りでジャージじゃないわけだ、と。
「今、それぞれ提案してたんだけど・・・俊くん何かある?」
いきなりだとは思ったけど、会話に詰まるよりはと俊くんに案を求める。
「んーー、夏だからーバーベキューとか?」
「男くさいか?」と俊くんが女子二人にコメントを求めると、「いいんじゃない?ね、」と倉坂さんがさくらさんに聞き彼女は「うん」と頷いた。
そういえばさくらさんは肉食だ、と思い出しつつ書き足していく。バーベキューの後花火でもいいな、と頭の中で案を整理していく。
想像を広げ過ぎて「あんたは?」という倉坂さんの問いに答えるのに時間がかかった。
「あ、ああ。僕は・・・」
みんなの提案を聞いただけで勝手に満足していて、自分の案を考えることを放棄していたことに気づいた。
「えーと」と視線を巡らせていると、さっき考えていたことが頭をよぎった。
「旅行、なんてどうでしょうか」
勢い良く発言すると一気に静まり、自分が言ったことを頭の中で繰り返す。けっこう駄目なやつだっただろうか、今のは。
「あ、えっと・・・バーベキューと花火とってやったりして、キャンプまではいかないけど、でも泊りにはなるかもなって」
言い訳を述べるように自分の考えていたことを早口になりながらも説明する。
なんだか沈黙は責められているように感じてしまう。
「あんたにしては言い考えじゃない」
沈黙を破ったのは倉坂さんだった。テーブルに体を少し乗せて、前のめりで僕の意見に賛同してくれた。
黙り込むからてっきり「泊りなんて!」とか怒られることを予想していたので拍子抜けした。倉坂さんはアウトドアだったか・・・。
「っていうかあんたが旅行とか提案するとは思わなくて驚いた」
沈黙の理由はそれか、と自分の周りに与える印象の暗さ加減を恨む。
未だにコメントのない二人の顔を見ると、さくらさんは微笑んでいて、俊くんは何やら携帯端末を操作していた。
「いいね、旅行。楽しそう」
さくらさんの言葉に安堵する。どこまでの提案をしていいものか迷っていて、だから余計に今回の賛同でこれからの選択肢の幅も広がった気がした。
横から俊くんの携帯の画面を覗き込むと、何やら検索しているようだった。
僕の視線に気付いた俊くんが僕のほうに画面を向けてくれた。
「けっこうあるぞ。花火とかバーベキューとかできるホテルやら旅館やら」
大雑把というよりも考えなしに言ったことだったのもあって、みんなの言葉でより現実味が増していく。案として書き足し、細かい内容はSNS のグループで話し合うことになり、お互いに連絡先を交換してお開きとなった。
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