夏_普通【3】
「ハル、昨日の話の続きだけど」
「う、ん」
ぎこちない返事になってしまったけれど、畠山さんと向かい合う。
そんな会話で始まった今日の昼休み。何かが変わりそうな気がした。
畠山さんは、やっぱり柵にもたれかかりながら、僕に話してくれる。ゆっくりと、なぞるように。
「友達ってどこからなのかわからないんだよね」
「うん」
僕もだよ、と意味を含めて頷く。人間関係は難しい。距離を測れるものさしがあればいいのに。そうすれば、お互いに傷つかないのに。
「だから、ハルも、私にとって何なのか・・・わからないんだ」
「それは僕も今手探りだから、まだわかんなくていいよ」
「そっか。わかった」
悩み事が減ってほっとしたのか、柔らかい笑みが彼女の表情を明るくさせた。
そう。彼女が笑ってくれるなら、僕らの関係に名前を付ける必要はない。変える必要もない。彼女が望まない限りは。
「ハルは、私を必要としてくれた。私の人生を・・・。でも、それ以外にはないんだ。私をここに繋ぎ止めるもの。だから、消えてもいいやって、そう思っちゃうのかな」
諦めるように、何かを落とすようにそう笑う彼女を見て決めた。やっぱり畠山さんには彼女が必要だ。
人生をもらってうだうだしている僕より、迷いなく彼女を愛せる人が。
決心して、俯き気味だった顔を上げる。
「畠山さ、」
「名前呼んだら?そろそろ」
「・・・さ、さくらさん」
突然の提案に、戸惑いつつも彼女の意志を尊重した。
「うん」と嬉しそうに笑う彼女に、一瞬何を言おうとしたのか忘れそうになった。すぐに思い出し、今度こそと気合を入れなおす。
「僕だけじゃないよ、さくらさんを必要としてる人」
「え?」
屋上の扉にゆっくりと近づく。その間もさくらさんから目を逸らさずに。
「さくらさんが必要で、大切に思っていて。そんな人を僕、知ってるんだ。会わせたいって思うんだ・・・勝手だけど」
勝手だと思っているけど、否定はしてほしくない。彼女が自信を貶すたびに傷つく人がいることを知ってほしい。脅しみたいだけど、そうすれば彼女が自分の存在を肯定してくれるんじゃないかと、本気で信じてる。
屋上の扉に手をかけ、開ける。なんとなくいる気がした。いないかもしれない。でも、いつの間にか僕は勝手に彼女を信頼していたらしい。
「倉坂さん」
「・・・何で」
「君は、彼女に会うべきだよ。彼女を肯定してほしい、お願いだよ」
暗く続く階段に人影が見える。僕らの会話は聞こえていただろうか。どちらにしても、僕は彼女という存在に希望を抱いている。
畠山さんは眉を顰めて柵のそばから動かない。警戒しているだろうか。そうさせてしまったのは僕か。
「私は今のままでよかった。今まで通り、見てるだけで」
悲痛な叫びが響く。
倉坂さんにとっては、それが一番だったのかもしれない。見守って、一喜一憂して、そんな日々を楽しく過ごしていたのかもしれない。
でも、畠山さんにとっては。そう考えたとき、彼女には行動してもらわないといけないと思った。さくらさんの為になら、人の幸せだって壊そうとする。所詮そんなものなのだ、僕なんて。
「それじゃあ駄目なんだよ。さくらさんをここに留まらせるために・・・その為には君の力が必要だ」
「どういうこと・・・?」
何も知らない彼女に話さずに伝わってほしいと願っている自分勝手な感情に嫌気がさす。
「後で話す。お願いだ」
何かを感じたのか、倉坂さんはゆっくりと階段を上ってくる。光に照らされて段々と姿がはっきりしてくる。
彼女は屋上に出る前に、少し横を向いた僕と向かい合った。
「絶対よ」
「うん」
頷くと、彼女はゆっくりと屋上に足を踏み込んだ。
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