夏_普通【2】
「どうしようかなぁ・・・倉坂さん」
「何をどうしようって?」
「、うわぁ俊くんっ」
机に突っ伏して一人悩んでいたところに、頼れるようで頼れない俊くんがやってきた。畠山さんのことに関しては相談したことがないから、今更言っても何も通じないんだろうな。周りに言いふらしていい内容でもないから、僕の中だけで留めておくのがきっと一番いいのかもしれない。
俊くんは前の席に座って、体を回転させる。
「俺に話したいこととかねーの」
俊くんは、話を聞いてくれはしても、そこから解決策が生まれないのが問題だ。そんなこと言うなら自分で考えろって言われるかもしれないけど、俊くんは頼られることが好きらしいから、定期的に話さなきゃいけないんじゃないかって気になる。
「今のところないよ。しいて言うなら、俊くんが何故そこまでモテるのか、それは聞きたいね」
「今ふざけるかこら」
「えー・・・結構聞きたかったけどな」
我がクラスで”無自覚天然女子キラー”と呼ばれる俊くんについて、本人と語り合うのは違うと思うけど、実際このクラスにそんなことできる人がいないというのが現実だ。
つまり、何故俊くんがモテるのかを本人と語り合いたい、ということだ。
もはや相談したいというより話し合うに変わってしまっているけど。
「大体俺はモテない。お前の頭ン中だけだぞ、俺がモテてんの」
「それが無自覚って言うんだよ」
「俺今怒られてんのか?」
クラスの男子に代わって少しだけ俊くんに対抗してみるけど、すぐに可哀想に思えてきてやめた。俊くんのこの無自覚っぷりは今に始まったわけじゃない。
みんなは高校で出会ってそのことに気づいたから今でも少し恨みがちだけど、僕は何年も前からそのことを知っているから、諦めもつくというものだ。
「あ、次移動じゃねえか。行くぞ」
「うん」
もともと気づいて机の上に用意を済ませていた僕は、それを持って立ち上がる。準備がまだだった俊くんを少し待って教室を出る。
移動する途中で、ひとりで歩く倉坂さんの後ろ姿が見えた。
「あれ、この前の」
俊くんは気づいて声を上げた。
先に向かうように言って、倉坂さんの背中を追いかける。
「倉坂さん」
彼女は僕に気づき立ち止まってくれた。ひとりでいるところを見ると、やっぱり彼女は不器用なのだと改めて感じた。そのことは自分でもわかっているのかもしれない。
「なに」
「いつも屋上で話すんだ、昼休みに。気が向いたら」
「え?」
訳が分からないというように首を傾げた彼女。少し経って理解したのか眉を顰めた。僕はその前に俊くんを追いかける。理由を聞かれたくないからだ。
多分聞かれても答えられない。自分の行動の裏付けができていないからだ。理由に基づく行動とやらは僕にはまだ難しい。だから逃げる。
「仲良くなったのか」
「そういうんじゃないけど」
探ろうとする俊くんの視線を避ける。はっきりしない僕は、ちょっとしたことで今にもぼろを見せてしまいそうだった。
彼女の”明日”という言葉を希望にして、僕は屋上への階段を一歩ずつ踏みしめて上る。そして、彼女の姿を見てホッとする。
今、確かにここにいる__。
こんな不安な時間をあと何回繰り返すのだろう。僕を待ってくれる姿を見て嬉しくなる瞬間があとどれほど残されているんだろう。
それを知ってるのは僕じゃない。
彼女自身が、彼女の中の何かに__委ねているのかもしれない。
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