夏_出会い【5】
「ずるい!!!」
意を決して呼び出された場所に行くと、予想外の言葉が名前の知らない彼女から飛び出しました・・・。
「僕考えたんだけど・・・何かしたかな?」
結局考えに考えて、彼女が僕に不満を抱いている理由はわからなかった。
昼休みと設定されてしまったので、ここに来る前に急いで屋上に行って、すでに来ていた畠山さんに「ごめん、明日で!」と謝罪をしてから急いで靴箱まで走った。
待たせたらそれこそ怨念で踏みつぶされそうになると思ったからだ。
「まさか忘れたの・・・あの楽しそうな水族館デートを!!!!!!」
「デート?っていうか何で知ってるの・・・」
「見つけてつけっ、たまたま見たのよ!」
「え、なんか僕怒られてる?」
っていうか今つけてたって言いかけましたよね、なんて火に油を注ぐようなこと僕にはできない。
というかたまたま僕らを見つけたのだとしたら、彼女の畠山さんレーダーはよほど過敏に動いてるに違いない。その後追いかけてきたのは問題だけど。
ふと彼女の持っている携帯端末についているキーホルダーが目についた。アザラシ・・・完全に楽しんでましたねこれは。
「な、何よ!」
「いや、なんでも」
これ以上神経を逆なでしないように、彼女に逆らうことをやめる。今一番疑問に思っていることと言えば、彼女のことを知らないということ。
「あのー」
手を挙げて質問形式で質問権をもらおうとすると、意外にも彼女は乗ってくれて「はい!」と質問権を与えてくれた。
これをチャンスと見て、気合を入れて質問をする。
「あなたの、名前は!」
「2年Ⅽ組!
「ぼ、僕はっ」
「2年A組
「は、はい!」
思わぬ彼女のフルネーム呼びに、出席をとられた気分になってしまった。というか、まさか名前まで調べたのか。そう思うとむしろ僕のストーカーにも思えてくる・・・。
脳内のことですら彼女に把握されてしまいそうだったので、邪念を払って落ち着きを取り戻すことにした。ならきっと畠山さんのことも知っているんだろうな。
ここまで干渉しておきながら、僕は彼女のクラスを知らない。だからなのか、彼女が教室で自分の席についている姿が想像できない。それなのに何故か、彼女のオーラに慄いて声をかけられないクラスメイトの姿は想像できた。人間は、自分が味わったことしか他人に投影して想像することができないのかもしれない。
「そこじゃないのよ!」
「すいません!」
彼女の勢いに圧倒されて思わず謝罪が飛び出す。なぜ僕は今謝ったのか。
彼女改め倉坂さんは、どうやらというかあからさまに僕を嫌っているけど、その要因はやはり僕が畠山さんに近づいているからということか。
でも彼女から離れることはできない。僕の使命でもあるのだ。彼女に生きる理由を見つけさせるのは。
いくら熱烈なファンである倉坂さんに頼まれたからと言って、それは変えられるものではない。
倉坂さんの出方を伺っていると、彼女は僕に対して違った方向で怒りをぶつけてきた。
「ずるいのよ!なんであんたが・・・桜ちゃんを笑わせるのは私だって思ってたのに、ずっとできなかったことをなんであんたが簡単にやっちゃうのよ、」
そうか、彼女は僕に嫉妬しているのか。僕が彼女に近づくことを嫌がっているわけじゃなかったんだ。疑問が解消されて、僕は彼女になんと言えばいいのかわからなかった。ただ。
「簡単じゃないよ。考えたよ。どうやったら畠山さんが喜んでくれるかなって。プレゼンまでして。だから、簡単じゃないんだ」
「でもあんたは桜ちゃんを笑顔にしたじゃない・・・。本当は文句言いたいんじゃなくて、ありがとうって言いたかったの」
元気だった倉坂さんが急に静かになって、天窓から入り込む光が余計に彼女の影を暗くさせた。何もできない自分への怒りを僕に向けてたのだとしたら、それは責められないことで、むしろ倉坂さんのことを・・・。そうか。
「その気持ち、伝えてみたらいいんじゃないかな・・・畠山さんに。こんなに思われてるってこと知ったらきっと喜ぶよ。本人じゃないけど、僕も嬉しい」
倉坂さんは驚いた表情で僕を見返した。
実際思っていることを伝えただけだけど、不満だったかな。見ているだけのほうがいいって人もいる。俊くんのファンの一部がそう。
でも、倉坂さんはファンではない。畠山さんの友達として絶対に彼女をこの世にとどめさせてくれると思った。そのぐらいの気持ちがあるからだ。なんの重みも感じられない僕と違って。
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