第23話

「ありがとうございましたっ!」




試合後の整列。敗れた啓城ナインは、泣き崩れる者、涙をこらえる者、それぞれいるが、ほぼ全員が例外なく眼を真っ赤に腫らしている。




「やられちまったな」


「まさか1年生しかいないチームが、3年生しかいないチームに勝つとは思いませんでした・・・」




帽子を取って礼をした後、主将の俺は啓城の主将・佐野さんと握手を交わした。




「次は栄電か。ウチ以上の強豪だけど、臆することなく挑めよ」


「はい!わかりました」




延長10回表、啓城は1番打者から攻撃が始まった。先頭の中田さんは三振に仕留めたものの、続く原田さん、そして新井さんに連打を決められ、1アウト1,2塁。ここで迎えるのは啓城の4番・小島さん。


東の内野はゲッツー体制を取った。そして平野が出したサインも低め。俺は平野のサイン無視をして、4番,5番と連続三振に仕留めようと思ったものの、10イニング投げるとさすがに球威が落ち始めている。


結局、俺はボールが先行し、3ボール1ストライクという状況だったものの、小島さんをショートゴロゲッツーに仕留めることができた。・・・結局は、松村の好守と強肩に助けられた。




そしてその裏、名古屋東の攻撃も1番打者から始まった。先頭の松原はショートへの深い当たりであったが、松原の俊足が功を奏し内野安打。すかさず盗塁を決め、ノーアウト2塁。一気にサヨナラのチャンスとなった。続く松村は空振り三振で倒れたが・・・その時だった。


2塁ランナーの松原が、3塁に盗塁を試み、何と成功してしまったのだった!これには啓城のナインも動揺を隠せない。そして続く3番・池田のところで啓城の投手・関口さんは降板し、エースの宮崎さんが登板した。


宮崎さんは長身の左投手だ。それに対し、池田は左投手に対してあまり得意ではなかった。本当ならここで代打を送っていいのだろうが、小林監督は代打を送らず、池田をそのまま打席に立たせる。


池田はあっさり2ストライクを取られ、簡単に追い込まれた。しかし3球目は見逃してボール。そしてカウント1ボール2ストライクとなった4球目・・・




打球はセンター後方へ飛んだ。啓城のセンター・中田さんは何とか打球を取り2アウトとなったが、犠牲フライには十分。3塁ランナーである松原は余裕で生還し、サヨナラ勝ち。名古屋東は3回戦進出を決めた。




◇ ◇ ◇




続く3回戦は完敗だった。海工大栄電かいこうだいえいでん相手になす術もなく0対20。5回コールド負けだった。名古屋東の先発・水野は3回7失点と打ち込まれ、4回に登板した鈴村も1回5失点。5回に登板した後藤と中井はそれぞれ、5失点と3失点という結果だった。打線の方も、背番号20の1年生左腕・日比野ひびのに5回参考ながら完全試合を喫する有様だった。


ちなみに俺自身はスタメンから外れ、5回裏に代打として出場したが、空振り三振に倒れてしまった。




結局、夏の愛知県大会は東望とうぼう高校が優勝し、春夏連続で甲子園出場を決めた。栄電は決勝で東望に敗れ、準優勝。東望は甲子園でもベスト8まで勝ち進んだのであった。




そして俺は8月のある練習休みの日、紗奈をプールに誘った。

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