第22話

「おい!お前らどんだけ振り回してるんだ!相手1年だぞ」




5回表が終了し、啓城の監督・橋本稔はしもとみのるはベンチに集まる選手にこう苦言を呈した。何せ、名古屋東の先発・伊藤優太にここまで1安打のみ無得点に抑えられている。しかもここまで毎回の10三振。全員3年生の打線が1年生投手に完璧に抑えられては、さすがの監督も怒りを抑えられない。




「すみません・・・でも東のピッチャー、めっちゃ球早いんです。150は出てます」


「は!?高1で150って・・・マジか?」


「伊藤が三振を取る度にスタンドがどよめいていますからね・・・」




啓城の6番打者・岸本浩二きしもとこうじは橋本監督にこう説明をした。橋本監督は今にも怒りそうな表情をしながらも、「試合も後半戦だ。さすがに伊藤にも疲れが見えてくる」と選手に奮起した。そして、




「宮崎!関口!肩を作れ!6回から投げさすかもしれないからな!」




橋本監督はブルペンで待機していた2人にこう指示をした。




◇ ◇ ◇




名古屋東も3回を除いては走者が出ていたが、あと一本が出ずに無得点のままだった。特に4回裏は2死ながら満塁まで走者を埋めたが、9番打者・大谷泰人おおたにやすとが三振に倒れ結局は無得点。これにはさすがの綾羽も「代打送った方が良かったかも・・・」と小言を漏らす有様だった。




さて5回裏の名古屋東の攻撃はどうなるか。名古屋東は1番打者・松原隼太まつばらはやたから攻撃が始まる。チーム1の俊足である松原くんが塁に出れば、二塁打三塁打の可能性は高い。そして、チャンスに強い松村くんと池田くんが走者を返してくれる・・・綾羽の考えには、こういう青写真が描かれていた。




しかし、結果はそう易々と理想通りにいかなかった。結局名古屋東は3者凡退に倒れ、0対0のまま5回の攻防を終えたのであった。




◇ ◇ ◇




啓城は9回表の攻撃が終わり、依然無得点のままだった。いかんせん打線が相変わらず、優太に抑えられている。9回までに、もう毎回の20三振を喫している。


投手こそ、先発の大島誠おおしままことが5イニングを無失点に抑え、6回からは関口直人せきぐちなおとが登板。関口もここまで3イニングを無失点に抑えているが、打線が無抵抗の状態ではいくら投手が抑えても勝てはしない。




ちなみに啓城打線は7回表にようやく2安打目が出て、安打を放った1番打者・中田周斗なかたしゅうとが盗塁を試みたものの、名古屋東の捕手・平野雅文ひらのまさふみの強肩に阻まれ失敗。続く2番・原田裕也はらだゆうやと3番・新井康生あらいこうせいは連続三振を喫し、無得点に終わった。これにはさすがの橋本監督も「あのバッテリーの攻略方法ないのか!」と優太だけではなく、水野に対しても攻略方法を探りはじめたのであった。




なお、関口は9回裏も無失点に抑えた。そして0対0のまま9回の攻防が終了。ついに延長へ突入した。




◇ ◇ ◇




試合は9回では終わらなかった。俺自身は初回から全力投球で、奪三振を量産していたのだが、打線の方が沈黙。得点圏にランナーを出しても無得点が続くという有様だった。そして、啓城は大島さんから関口さんという継投が見事に的中していた。俺自身も4打数ノーヒットという有様だ。




「伊藤くん、10回行ける?」


「あー大丈夫っす。まだまだ行けます」


「ところで石原さん、伊藤くんはもう何球投げたの?」


「138球ですね・・・」


「結構投げてるわね・・・」




俺はチラッとブルペンの方を見る。ブルペンでは水野と鈴村が肩を作り始めていた。そして、




「伊藤くん、10回も任せたわよ。必ず無失点に抑えなさい」


「あ・・・はい!」




小林監督からこう言われた俺は10回のマウンドに立ったのであった。

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