第15話
2点差、9回表、ノーアウト1,2塁。
俺が9回の打席が回ったのは、ホームランで逆転という場面だった。対戦相手の坂口は軟式野球出身で、身長は180cmに達するか達しないか。そして、ストレートはMAX120km/台半ばで縦に落ちるカーブが決め球という左投手。右打者で左投手には滅法強い俺からしたらかなりのカモといえるだろう。
俺は初球からホームランを狙いに全力でフルスイングする。初球は坂口のカーブに対処できず空振り。2球目と3球目はボールを見極めることができ、4球目は坂口のストレートをジャストミートすることができたが、タイミングが早すぎたのか、左に切れてファールとなってしまった。そして5球目を見送り、フルカウントとなった6球目、坂口のストレートを強振した結果・・・
どん詰まりのサードゴロだった。サードを守る藤田はすかさず三塁を踏み、1アウト。そして2塁に送球し2アウト。そして最後は1塁に送球し、トリプルプレーで試合終了・・・にはならず、俺は間一髪セーフとなった。しかし、これで2アウト1塁。紅組はついに、後がなくなってしまった。そして、続く上田が三振に倒れ、試合終了。
名古屋東高校野球部の初実戦である紅白戦は7対5で白組が勝利したのであった。
◇ ◇ ◇
「ありがとうございました!」
試合が終わると、紅白両チームの部員がお互いに礼をする。しかし、2時間以上試合をしていたせいか、太陽の光はもう西に傾いていた。そして部員全員でグラウンドの後片付けをする。
「とりあえず、全員のプレーがしっかり見れたのは収穫だったわ」
試合後のミーティングで小林監督は部員にこう言った。そして各部員にこの試合での収穫と課題を言う。俺の収穫は経験が少ない外野守備にうまく対処できていたこと。そして課題はホームランを意識しすぎるということだった。そして、
「今日の試合で一番気になったのは、鈴村くんの調子がイマイチだったことね・・・」
と小林監督は小言を漏らしていた。結局、小林監督はこの日のミーティング終了後、鈴村を個人的に監督室に呼び出していたのは言うまでもない。
◇ ◇ ◇
ミーティングを終え、下校した頃にはもう夜の7時を回っていた。太陽は完全に沈み、空は真っ暗だ。試合を終え、身も心もすっかりクタクタな俺は紗奈と一緒に家路に向かっていた。
「春になったというのに、もう真っ暗だね・・・」
「そうだな」
「優太も今日は流石に疲れているでしょ?」
「ああ。身も心もクタクタだよ」
「だったらいつもよりゆっくり帰っていいんだよ?」
「バカ言え。明日は学校なんだぞ。普通に授業がある」
「でも、来週からゴールデンウィークだよ?」
「どうせ連休中は練習漬けだ。連休中に合宿があるのお前も知ってるだろ」
「あ・・・そうだったね」
「5月に入ったら練習試合組むみたいだし、6月にもまた合宿がある。そして7月になったら大会が始まる。俺は夏のメンバーに選ばれるために必死なんだよ」
「でも、優太はレギュラー確定なんでしょ?」
「そんなこと誰が言った。まだ白紙だよ。夏のメンバー発表は6月中だから、それまでは誰がメンバーに選ばれるのか・・・」
「ごめん・・・」
「いいよ謝らなくても」
俺と紗奈は、そんなことを言いながら、暗い夜道を自転車で駆け抜けていったのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます