第14話

序盤の試合展開は、明らかに白組のペースだった。




白組の先発投手・水野は1回表を三者凡退に抑えると、その裏、トップバッター・谷川がセンターにツーベースを放つと、続く大谷もライト前に運び、ノーアウト1,3塁。そして、3番・松村がセンターへ犠牲フライを決め、まず白組が1点を先制した。さらに、続く4番の平野がレフトに2ランホームランを放ち、白組が3点をリードした。


水野は2回以降も無失点に抑え、許した安打は2回表に俺が打った1安打だけだった。一方、初回に3点を失った紅組の先発・鈴村は2回と3回こそ無失点に抑えたが、4回裏に木村に2点タイムリーを打たれたところで降板し、2番手の左腕・後藤にマウンドを譲った。結局、鈴村は3回と3分の1を投げ、5失点という結果だった。鈴村は140km/hを超える速球が武器の本格派右腕で、水野と並ぶエース候補だっただけに、この炎上は予想外だった。




5回表、紅組の攻撃は8番の大脇から始まる。大脇は初球をセンター前に運び、続く後藤も送りバントを決め、1アウト2塁。紅組は初めて得点圏にランナーを置き、1番の松原に打順が戻る。


しかし、ここから水野が本領を発揮する場面だった。松原を三振に仕留め、続く2番・宮内にはフォアボールを許したが、3番・池田をレフトフライに打ち取り、結局紅組は無得点に終わった。そしてその裏、紅組は1アウト2塁から3番・松村と4番・平野の連続タイムリーで2点を追加し、0対7と白組が優位に進め、5回までの攻防が終了した。




◇ ◇ ◇




「今のスコアで終われば、7回コールド負けだ。とりあえずこれ以上の失点はやらないし、最低でも1点を取って、9回まで持ち込むぞ」




6回表、紅組の攻撃が始まる前、脇田コーチはベンチに集まる紅組ナインにこう言った。紅組ナインは脇田コーチの言葉に「はい!」と声を出す。そして6回表、紅組の攻撃は・・・4番の俺から始まる。俺は脇田コーチから言われた、「一発打ってこい!」という言葉を胸に刻み、打席に向かった。




◇ ◇ ◇




6回から紅組の投手が代わった。紅組の2番手は右の山田だった。山田は軟式野球出身で、身長は170cm半ば。そして、ストレートはMAX130km/台前半で変化球も多彩・・・というのが選手データだ。ちなみに、先発の水野はファーストに回り、ファーストの藤田がサード。サードを守っていた日高がベンチに下がり、日高の打順に山田という布陣である。


俺は初球をフルスイングした。その時、山田が放った球は外角高めのストレートだった。そして打球は、レフト後方の防球ネットに直撃。文句なしのホームランだ。これで1対7。紅組の反撃が始まった。


紅組はこの回、さらに1点を返し、2対7とした。後藤は6回と7回を無失点に抑え、8回からは右の中井にスイッチ。そしてキャッチャーは西村に代わり、セカンドも大脇から後藤の代打で出た橋本に代わった。8回裏からの紅組の下位打線は7番キャッチャー西村・8番ピッチャー中井・9番セカンド橋本という布陣だ。


8回から登板した中井も無失点に抑えることができた。一方の打線は、7回に上田の2点タイムリーで2点を返すも、8回は三者凡退だった。




そして9回表、3点を追う紅組最後の攻撃は1番の松原から始まる。




◇ ◇ ◇




9回表、白組の投手は左の坂口に代わった。坂口は山田と同様、軟式野球出身で、身長は180cmに達するか達しないか。そして、ストレートはMAX120km/台半ばで縦に落ちるカーブが決め球・・・というのが選手データである。そしてキャッチャーも8回に山田の代打で出た大竹に交代。さらにキャッチャーだった平野がレフトに回り、ベンチに下がった木村の打順に坂口というのが今の白組の布陣だ。


先頭の松原は大阪のシニアリーグ出身の俊足の左打者だ。現状、松村が松原にとって最大のライバルであるが、活躍の場を広めるために、ここ最近はセカンドや外野の練習もしている。


結局、松原は粘りに粘った10球目でショートへの内野安打を決めると、すかさず盗塁を決め、ノーアウト2塁。続く宮内が左中間にタイムリーツーベースを決め、5対7。これで2点差である。そして3番の池田がフォアボールを選び、ノーアウト1,2塁、ホームランで逆転という場面で俺に打席が回った。

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