第10話

3月初旬、ついに中学の卒業式当日だ。気温は日に日に高くなり、冬の厚着のままでは、暑ささえ感じる気温となっていた。プロ野球はオープン戦が開幕し、月末には選抜甲子園の開幕とレギュラーシーズンの開幕という野球シーズンの到来だ。




「おーい、優太ぁー」




友達とのやりとりを終えた紗奈が卒業証書の入った筒を俺に向けてブンブンと振っている。そして・・・




「高校でもよろしくっ!」




と俺に抱きついてきた。そして、「今から体育館裏に来て。優太に話があるの」と言われた俺は、そのまま紗奈に体育館裏まで連れて行かれた。




「何の真似だよ、紗奈」


「優太、あんたのこと好き」


「は?」


「は?って何よ。私の気持ち知ってるくせに」


「気持ちってなんだよ」


「・・・鈍すぎ」


「鈍すぎってなんだよ。お前頭大丈夫か?」


「頭大丈夫かなのはあんたの方よ。私、優太のことめっちゃ好きなの!大好き!愛してる!」




紗奈が俺から言われた一言は、ただただ衝撃的な一言だった。お互い顔が紅潮している。心拍数も凄いことになっている。そして、しばらく続く無言。その間、隣にある公園には同級生が集まり、同級生の視線は俺と紗奈に向けられていた。




「公園見ろよ。俺たちに視線が集まってるぞ」


「うん、それは知ってる・・・」




紗奈の目には涙がうっすらと流れていた。そして、




「私、ずっと・・・ずっと待っていたの・・・優太から『好き』という言葉を言ってもらえるの・・・」




紗奈は手の甲を使い、一度涙を拭った。涙の飛沫が紗奈の周りで、わずかに輝く。




「ずっと、てお前・・・一体いつから?」


「覚えてない・・・でも、物心ついた時には優太とずっと一緒にいたいって思ってた・・・」




マジかよ。10年以上前の話じゃないか。そして、紗奈は涙が止まると、




「石原紗奈は、伊藤優太が好きです。大好きです。好きで、好きで、どうしようもないくらい、あなたのことが大好きです。愛しています。」




という言葉を俺に言った。




「紗奈・・・長い間待たせて、ごめん・・・」




俺は改めて、現在目の前に居る紗奈を見つめた。今度はこっち泣きそうだ。




「優太・・・」




そして、俺は『スッー』と息を大きく吸う。言葉にするのは恥ずかしかったが、紗奈がここまで言ってしまった以上、もう逃げるわけにはいかない。




「ありがとう。俺、紗奈から好きと言われてめっちゃ嬉しかった。でも、今はまだ付き合えない。少なくとも高校卒業するまでは無理だと思う」




結論は最初から決めていた。紗奈には悪いけど・・・




「え!?なんで?」


「高校に進学したら、今以上に野球漬けだ。甲子園を目指して、1年中練習三昧。そんな状況で、恋愛なんてできるわけねぇだろ」


「そう・・・ゴメンね、優太。私、迷惑かけちゃった・・・」


「でも俺は紗奈が大切な人だと思ってる。15年間、俺と紗奈に築かれた信頼は簡単に壊れない」


「優太・・・」


「そんなわけで紗奈、これからもよろしく」


「うん。私も優太は大切な存在だよ・・・」




紗奈の目は完全に充血し、再び潤んでいた。

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