第9話

そして1月、年が変わった。俺たち中学3年生は目前まで迫った高校入試に向け、残り3ヶ月の中学生活を送っている・・・




というのは、俺以外のヤツら。




高校はスポーツ推薦で、入試は簡単な学力検査と面接だけという俺は、高校野球に向けての練習を毎日のように行なっていた。


そして、2月に名古屋東の受験を控える紗奈は学校が終わると毎日のように塾に向かい、塾が休みである日曜は家庭教師を雇ってまで勉強をしていた。


ここまで勉強漬けにならなくても、紗奈は頭がいいから余裕じゃん・・・と思うのは当事者じゃないからだろうか。紗奈はいつも学年で5番以内の成績である。学年トップになった時もあった。本気を出した紗奈は、さぞ凄いんだろうな・・・と思ったが、そうでもなかった。




「みんな遊ばずに頑張っているんだから、私だって勉強するわよ」




そんなもんなのかな。それでも紗奈は、先日行われた模試ではほぼ満点で、偏差値も70を超えたとかなんとか。




「選抜クラス?何だ、それは」



「自分が行く学校のことくらい、把握できないの?」




紗奈の話によると、前身の名古屋女学院は、一学年200人くらいの私立にしては比較的小規模の学校だったが、共学化にあたって定員を大幅増員させ、文武両道を狙うらしい。


『武』の方は、俺みたいなスポーツ推薦の生徒。スポーツクラスを2クラス作り、野球部とソフト部、さらには、男女サッカー部の強化を図る。


そして、紗奈の言った『選抜クラス』というのが『文』の方。噂では、入試成績上位者で、選抜クラスを1クラス作るそうだ。2年になると、中高一貫のクラスに編入し、難関大学の現役合格を目指す。




「学校や塾の先生にも勧められたんだけど・・・折角だし、選抜クラス目指すことにしたの」




紗奈はちょっと微妙な表情で笑顔を作り、俺は「そうか、頑張れよ」と言ってやった。




◇ ◇ ◇




1月下旬、まず俺が名古屋東の推薦入試を受けた。推薦入試の内容は、国語・数学・英語の簡単な学力検査と面接である。午前8時45分までに指定の教室に集合し、座席に座った後は、推薦入試の説明を受け、午前9時に試験開始。国語・数学・英語の簡単な学力検査が1時間行われる。


実は言うと、入試の前に紗奈から、「念のため、中学のテストをもう一度やり直したほうがいいよ」と言われたため、3年間のテスト問題を一からやり直した。で、テストの時に配られた模範解答を見て採点。国語はかなりの点数を取っていたが、数学と英語はかなり厳しい結果となった。




問題の内容はいたって基礎的なものだった。俺はしっかりと解答を埋め、基礎学力検査は終了。そのまま面接に向かった。


面接は自己紹介と志望理由、入部希望の部活を聞かれた。面接は都合、10分もかからなかった。そして、面接が終わるとそのまま帰宅。なんと午前中で入試は終わってしまったのだ。


入試には、平野や水野、そして松村の姿もあった。みんな結局名古屋東に行くのか。しかし、心強いチームメイトがいると助かるな。甲子園がグッと近づく。そして、推薦入試での野球部の入部希望者は25人だった。ちなみに東名シニアからは俺だけ。あと関東や関西からも野球部への入部希望者が受験していたそうな。




俺が無事合格を果たすと、次は紗奈の一般入試の番だ。俺の入試の時、紗奈が励ましてくれた分、俺も紗奈を励まさなければならない。俺は受験までの数日間、紗奈を激励し続けた。




そして数日後、紗奈は名古屋東の入試を受け、無事合格したのは言うまでもない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る