第8話

若林のピッチャーとしてのデータは皆無だ。しかし、球速は結構ある。大体最高球速は130km/h台後半か。それにコントロールも結構いい。変化球のキレもなかなかだ。高校ではピッチャーかバッターかどっちにするかまだわからないけど、もしピッチャーになったらいいピッチャーになりそうだな。


しかし、そんなこんなで俺は久しぶりの試合で野球の楽しさを思い知ることができた。結果としては、1打席しか出る機会はなかったけど、その1打席を楽しむだけで俺は幸せだった。高校でもこんな感じで野球を楽しめたらなぁ・・・って思う。




で、試合の結果はどうだったかって?




結局俺はフルカウントまで持ち込んだが、センターフライに倒れ、2対1で紅組の勝利に終わった。打った当たりは完璧だったけど、まさか岡本があんな長打コースの打球を取ってしまうとはなぁ・・・つくづく運がねぇ。




「ありがとうございましたぁっ!」




試合が終わると、互いに礼をし、父兄と下級生のいる観客席にも深く一礼をした。しかし、陽もすっかり西に傾いてしまったな。




「優太!復帰おめでとう!高校でも頑張れ!」




俺が観客席に向かうと、紗奈が俺に向かってそう大声で叫んでいた。そして、最後はチームのみんなと握手しながら、トンボとローラーを取りに行く。




「若林、完敗だったよ」


「いや、お前にあんな完璧な打球を打たれた時点で俺の負けだ」


「若林、お前絶対高校ではいいピッチャーになれると思うぞ」


「そうか、ありがとな。俺、高校ではピッチャーやるよ」


「それに岡本、まさかお前があんな打球を取ってしまうとはな」


「え?だって、たまたま近くを守ってたから・・・」


「なわけあるか。結構離れてたぞ」


「うん・・・でも私、打球取るのに必死だったの。だって、私がもたついてたせいで鈴木くんがランニングホームランになっちゃったし」


「その必死さが最後の好プレーに繋がったんだよ」


「・・・そうだね。ありがとう、伊藤くん。私に野球の楽しさを教えてくれて」


「俺こそありがとうって言いたいよ。若林と岡本のおかげで、野球の楽しさを思い出すことができたんだから」


「伊藤くん・・・本当、カッコイイこと言っちゃうんだから」


「伊藤・・・ほんとお前、いい奴だな」




そして・・・




「3年生、グラウンドにも一礼するぞ!気合い入れて、整備するぞ!」


「おーっ!!!!!」




俺達3年生は、それぞれ整備用具を持って、青山監督の合図とともに、夕陽に照らされたグラウンドへ駆けて行ったのであった。

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