中学3年生

第1話




「そういえば優太って高校どこ行くの?」




中学3年の2学期が始まるや否や、俺・伊藤優太いとうゆうたは同級生である石原紗奈いしはらさなからこう聞かれた。




「紗奈こそどこ行くんだよ」


「私?まあ普通に高校受験して、3年後は普通に大学に進学すると思うよ」


「あー、出た出た。紗奈の普通発言」


「そういう優太こそもう、甲子園出るようなとこから推薦の話あるんでしょ?」


「いや全然。第一、怪我持ちの中学生をスカウトするとこなんてねーよ」


「嘘だ嘘だ。優太より野球上手い中学生なんて私知らないよ?」


「それはお前が野球知らなさすぎるからだろ。まあ、高校でも野球やるつもりだけど、普通に受験するよ。野球はリハビリの延長になるだろうな」


「ふーん、もったいないことするなぁ。だったら私も優太と同じ高校行って、野球部のマネージャーやろうかな?」




・・・やべぇ。今の紗奈の表情、めっちゃ可愛い。俺は少し赤面した。で、紗奈に「なんで優太顔赤くなってんのよ・・・」って言われてしまったが。




◇ ◇ ◇




俺の将来の夢は、甲子園に出て、プロ野球選手になること。そして、プロで一流のスター選手になって、メジャーリーグに挑戦。メジャーでも活躍して、名球会と野球殿堂入り。最後は国民栄誉賞を取れるような選手になりたいなぁ・・・って思う。




そして、俺と紗奈は同じマンションに住む、いわゆる幼なじみってヤツだ。登下校は小学校からずっと一緒。中学の部活もお互い週2回、1時間くらいしか活動しない美術部だったからな。俺がシニアクラブで野球やってて、平日の自主練習や週末の全体練習に参加する時も紗奈はよくグラウンドに顔を出していた。まあ、俺と違って紗奈は運動が苦手だからひたすら練習を見学していただけなんだけどな。




この日は2学期の始業式当日だった。学校は午前中に始業式とホームルーム、そして防災訓練を済ませて終わり。午後は部活に参加する生徒もいれば、そのまま帰宅する生徒もいた。当然お気楽文化部の俺たち2人は後者。また、夏で部活を引退した多くの3年生もこのまま帰路についていた。




「じゃあな、紗奈」


「うん、また明日」




俺と紗奈はマンションに着くと、すぐさまエレベーターに乗った。家は俺が4階で紗奈が6階なので俺が先にエレベーターから降りることになる。




「ただいまー」


「優太お帰り、今から昼作るからね。あ、そうそう。さっき若い女の人が来たんだけど、あんたに話があるって」




家に帰るや否や、母さんからお客さんが来ていると言われた。俺は母さんに言われるがままに、リビングへ向かった。リビングには1人の若い女性がいて、俺に笑顔で挨拶をした。




「あなたが伊藤優太くんね。初めまして。名古屋東高校で野球部の監督を務める小林綾羽こばやしあやはです。あなたをスカウトしに来ました」




その若い、スーツ姿で長い黒髪を後ろで束ねた女性は俺に挨拶をすると、すかさず名刺を差し出した。そして名刺には『名古屋東高校硬式野球部監督 小林綾羽』と書かれていた。

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