プロローグ

全国中学校硬式野球選手権大会・通称ジャイガースカップ。




全国にあるシニア・ボーイズといった様々な連盟に所属する硬式野球チームが統一ルールのもと、地区予選を戦い、予選を勝ち抜いたチームだけが出場できる中学硬式野球の日本一を決める全国大会である。いわば中学野球の甲子園だ。そしてこの大会に出場した選手は、多くが高校野球の名門校に進学する。また、甲子園出場を経験し、やがてはプロ野球選手になる者も少なくない。




◇ ◇ ◇




俺・伊藤優太いとうゆうたが所属する東名シニアは、全国優勝の経験こそないものの、全国大会常連の名門クラブだった。そして、これまで活躍された先輩方は多くが県内外の強豪私学に進学し、プロ野球選手になられた方もいる。


中1の秋、俺は東名シニアのエースを務めることになった。下級生がエースを務めることは、東名シニア史上初めてのことだった。打順も6番を任され、3年生の引退後はエースであり4番打者という選手起用が約束されていたほどだった。当然ここまで活躍すれば、県内外の甲子園常連校からも是非入って欲しいという声がかかってくる。要するに俺は、投打にわたって将来を期待され、いずれはプロ入りするであろう逸材でもあったのだ。




◇ ◇ ◇




ジャイガースカップ決勝戦。7回裏ノーアウト満塁。スコアは3-2。東名シニアが1点をリードしていた。


この日俺は6番ライトとしてスタメンに出場していた。先発は元々ライトがレギュラーである3年生の高橋たかはしさん。高橋さんは初回に2点を失うも、打線が3回と4回に1点ずつ返し、同点に追いついた。そして6回からは俺が登板し、7回表ついに勝ち越しに成功。俺がその裏の最終回もマウンドに上がることになった。


しかし、俺は安打と四球でノーアウト満塁、一打で逆転サヨナラのピンチを作ってしまった。ここでタイムがかかり、ベンチから松原まつばらさんが監督からの伝令を伝える。そして捕手の森本もりもとさんと遊撃手で主将の酒井さかいさんが俺に激励を飛ばした。


ここで俺の気持ちも変わったんだろう。次の打者をピッチャーゴロ本塁併殺に仕留め、さらに次の打者も三振に取ることができ、そのまま試合終了。最後に放ったストレートは自己最速の145km/hをマークした。そして、東名シニアが初の全国大会優勝を果たした瞬間でもあった。




それと同時に、俺が中学2年生にして中学野球の最後の試合になった瞬間でもあった。




◇ ◇ ◇




大会が終わり、3年生が引退すると俺はエースで4番、そして主将に任命された。しかしこの直後、秋の大会が始まる直前の出来事だった。突如、俺の右ひじに激痛が走った。俺の異変に気付いた投手コーチの勧めで医師から診断を受けた結果、思いのほか重症だったので、手術をすることになった。医師からは手術後はリハビリをするので全治1年以上かかると言われた。そしてリハビリが最終段階に入り、キャッチボールを再開したのが中3の夏、チームがジャイガースカップに進めずそのまま俺を含めた3年生が引退した時だった。




そして中3の秋、2学期に突入し、高校決めについて真剣に悩んでいた時、1人の女性が俺のもとにやってきたのだ。




◇ ◇ ◇




当小説内でのプロ野球チームの球団愛称一覧です(北から南の順)。




セリーグ

・東京ジャイガース

・東京スパイダース

・横浜ブルースターズ

・名古屋ドジャース

・大阪タイアンツ

・広島カージナルス


パリーグ

・札幌ソルジャーズ

・仙台イーグレッツ

・埼玉ホワイトキャッツ

・千葉マリナーズ

・大阪バイソンズ

・福岡シーホークス

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