進展

 あれから一ヶ月後、季節は冬、12月に入った。


 私達は、過去の猫の出没ポイント、出る時間、狙われた人々の共通点を細かく調べ、次に現れるであろう場所を特定する事に試みていた。 


 そして、季節が秋から冬に代わる間に、私達の関係も変わった。つまり、恋人同士になった。


 これには、意外にも両親が猛アプローチして来たのと、いちいち知り合いに説明するのが面倒だったという事もいるが…まあ、その辺はまた別の機会に話そう。


 そんな感じで、最近は、毎日が楽しい。まるで、夢のようだ。


「ねぇ、明日って空いてる?」

「明日?悪い、明日は死神協会に報告に行かないといけない日なんだ。何処か、行くつもりだった?」

「うんうん…ちょっと気になる場所があって、どうかな〜って思ったんだけど、また今度にする」

「うん、悪いね」

「全然良いよ!それより、ずっと気になっていたんだけど、死神が私みたいなもう時期死ぬ人と付き合っていいの?」

「それに関しては問題無い。観察者の側で観察出来るなら結婚して、夫婦になっても良いからね」

「…意外とゆるいって言うか、腹黒ね」

「そうも言える」

互いにクスクスッ…と笑った。

 空を見ると、太陽が消えた。黄昏時だ。

「じゃあね」

「ああ、またな」

それぞれ家に帰る。



 玄関を開けると、びしょ濡れのマルがダイブして私に飛びついて来た。その衝撃で、私は強く尻餅をつく。お陰で腰まで痛い。

「も〜、マルたらまた太ったでしょ!」

舌を出して、私の上でハァハァ言いながらドヤ顔だ。

 鼻を人差し指で触ってみる。そしたらこっちを向いてペロペロ舐める。昔からこれがくすぐったいけど、辞められない。

「あぁ…マル?」

お父さんがタオルケットを持って、お風呂に入ってびしょ濡れなのであろうマルの毛を拭こうと近づく、マルはそれを察知して、悪い顔をしてまた逃走を図ろうとした。だが、そうはさせるかと、私にギュッと捕まって、素直にタオルに拭かれることになった。その後、勿論ドライアーもしてもらっていた。

 そして、マルに飛びつかれて汚れた私も、そのままお風呂に直行した。



 次の朝、いつもより遅い時間に目が覚めて、1階に降りると、両親ともに仕事だった。

 今日は予定もないので、最近はお父さんに任せっきりだったマルの散歩に行く事にした。


 窓をガラガラって開けて、庭で昼寝をしていたマルを呼ぶ。

「マル!散歩行くよ!」

いつも定位置に置かれているリードをくわえて、マルがせかせかとやって来た。頭をよしよしと撫でてあげる。そして、リードを付けて散歩スタートだ。


 天気が良くって、空気が澄んでいて気持ちいい。今日は遠くまで行けそうだ。取り敢えず、下見であそこに行ってみようかな?

 私達は坂を下り、昔よく行った場所に向かう。



ミャー、ミャー、ニャーゴ…



 散歩をしていると、何処からか猫の鳴き声が聴こえて、後ろを振り向く。そこには…


「まっ、待って!」

前のめりに先行を歩くマルをいきなり強く後ろに引っ張って、私は黒い猫を追う。

そのせいでマルがひどく咳き込んでいたが、心の中で「ごめん」った誤って、あとを追う。


 猫は、時々チラチラこちらを見ながら、人が一人通れそうな路地を走った行く。そして、あとちょっとで追いつくってところで、いきなり景色が変わった…


 そこは、何処かの廃ビルの中、外には大きな赤い満月が見える。

「ここ…何処?」

何か忘れている気がして、横を見るとマルがいない

「えっ…マ、マル!何処なの?」

私は暗い廊下を走った。




「えっ!遥さん、まだ帰って来てないんですか?」

「えぇ、家に帰ったらこの置き手紙があって、この距離ならもう帰ってきてる筈ですし、携帯も繋がらないし、刹君なら何か知っているかもって…」

「あの…お母さん、この丸山病院って?」

「あぁ…昔あの子が入院していた病院よ。でも、もうあそこは…」

「はっ!僕、そこに行きたいです。その病院は、何処にあるんですか?」

「ええっと…ちょっと地図書くから待っていて」

「はい」

窓から空を見ると、今日は満月だ。


   遥、どうか無事で居てくれ…

 

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