絶望


   私には、あまり時間がない。


 生まれつき心臓が弱く、もってあと半年の命だと、主治医の先生から聞かされた。


 病院の外に出て、途方にくれながら父に迎えのメールを打つ。

 だが、両親を悲しませたくないと言う気持ちから、自然と今まで打った全ての文字を消した。そして、歩いて帰ると言うメールだけ送って、夜空を見上げた。

   

     あぁ…今日は満月だ



 病院から家までは一時間。バスを使って30分の距離だ。

 だが、バスを待っていられる程の気力もなく、とぼとぼと家に向かって歩いていく。


 目の前が真っ暗、絶望だ。今なら、あの噂の黒猫に魂を取られてもいい。それで、この苦しみから救われるなら…いいや。



 あれから何分経ったんだろう。次の角を曲がって数歩すれば、自宅という距離まだやって来た。

 だけど、もう心も脚もパンパン。このまま倒れて楽になりたかった。


 そんなやつれた体にムチをうち、最後の曲がり角を曲がったときだった。誰かとぶつかった。ドスっと言う、鈍い衝撃音とともに私は地面に尻餅をついた。


「あ…いたた」 

おでこをさすりながら、ゆっくりと見上げる。そこには、大きな鎌を持った上下黒シャツ、ズボンの美青年の姿があった。

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