4章 現在の状況

朝、起きてからが本当の意味で大変だったのは言うまでもない。

朝早く起きた唯璃がなぜか頬を赤らめ、抱きついていた。思わず、眠気が飛び、反射的に起きてしまった。

「不束者ですが、よろしくお願いします兄さん!」

唯璃の話し方がいつもと変わらないように感じた為、あまり気にも留めていなかったのだが、どうやら気のせいではなかったらしい。


まず、唯璃の昨日までの行動から大きく変わったことは、無性に抱きついてくることが多くなったことである。家の中で、年に一度あるかないかの頻度であったはずなのに、過度なスキンシップが多くなったのは言うまでもない。さらに、兄である俺を”一人の異性”として見るような言い回しが多くなったのも顕著だと言えるだろう。義妹はその手の話に、今まで興味を示さなかったため、そういった話が少なかったのだが。



朝から急に発情してしまったかのような反応が多い。大方、昨日の夜の手紙が原因なのは言うまでもないだろう。義妹は、俺のことが昔から好きだったのかは正直わからないが、俺のことしか信用していなかったのは事実だ。高校以前も、家族以外の異性には目もくれず、なぜか俺にべったりであった。ブラコンだと言われても、開き直っている節さえあった。そんな義妹から見れば、現在の状況はまさに渡りに船と行った状態であろう。義妹の声を代弁するならば、「念願の兄さんと恋人になれる!だから、義妹じゃなくて一人の”女の子”として見て欲しい!」と思っているに違いない。

仮に、唯璃と血の繋がりがなかったとしても、すぐに関係を変えるのは正直難しいとさえ思う。俺たち義兄妹の中では、血縁関係でないことがわかったが、証拠と思えるようなものがなかったため、一般的にアウトな関係に陥られているように思われても仕方がない。そのため、すぐに周りに知らせることだけでは避けていた。

(混乱の元だしな。特に祐姉に、知られるのはまずい。唯璃の”好き”が、兄への”家族愛”から、異性への”恋愛”に変わってると知られると、祐姉も積極的な行動に出てくる可能性があるため、余計にややこしくなるのが目に見えている。)


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


…そう言えば、唯璃が俺に呼びかけてた気がするが、どうしたのだろうか? すっかり昨日の夜まで遡って回想しすぎて、唯璃の事を忘れていた。恐る恐る隣を見ると、ニコニコしたままの唯璃がいた。腕に挟まれた二つの感触が少し強くなった気がした。反射的に、もう片方の手で唯璃の頭を優しく撫でた。するとすぐに、唯璃は表情を和らげ、たまらなくなったのか突然正面から抱きついてきた。


「どうした突然?」

「兄さん、すごく優しいです。私に興味を持ってくれたんですか?」

「それはないと思うけど。唯璃を放っておいたのは悪いと思ってるから謝罪の気持ちが大きいかな?今はまだ、”一人の女の子”としては見れないよ」

「それはちょっと悲しいです。兄さんは私のことが嫌いですか?」

「嫌ってなんかいないさ。唯璃を今更他の男なんかに渡さないよ。」

「えっへへぇ〜、すごい嬉しいこと言ってくれますね。私の方こそ、兄さんから離れたいとは思わないですよ?」

「それに、”可愛い女の子”が自分を慕ってくれることは”男”にとっては微笑ましことなんだよ?」

「兄さん、私のことを”可愛い女の子”だと思ってくれてるんですね。凄く嬉しいです。私も、兄さんのことが大好きです。だから、安心しました。」

「安心?何のことだ?」

「そりゃあ、昨日のことで兄さんに距離を取られたくなかったんです。それに、兄さんは私にとって一番大事な人でもあるんです。だけど、朝起きた時から気がつけば、その事を考えてしまって凄く不安でした。兄さんは、相変わらず変わらない雰囲気だったので昨日のことは私の勝手な幻覚だと思ってしまったほどです。でも、さっき兄さんが昨日の夜からをキッカケに私の事を少しずつ、意識してくれてると知って嬉しくなりました。だから、これからは兄さん好み”一人の女の子”になれるように頑張ります。」

「そういうことか〜。唯璃も大胆になったものだな。」

「当たり前です。本気にならないと、兄さんの隣は確保できない気がするので全力で頑張ります!」

「ほどほどにな〜。で、話は変わるけどどうしたんだ急に慌てて?」

「いきなり、話をすり替えないで下さいよ〜。私にとっては、人生の中で一番重要な事なんですから〜」

「悪い、悪い」

「本当に反省してます?」

「してるしてる」

「本当ですか?」

「しつこいって、その辺にしとけよ。いい加減うざいからさ」

「むぅ〜、兄さんに嫌われるのは嫌なので大人しくします。でも、だからと言って、変に距離を取られるのも嫌なので今日はこの辺にしておきます」

(…昨日の出来事さえなければ、唯璃もここまで変わる事はなかったのではないかと思わないでもない。はぁ〜、むやみに開けるもんじゃないよなぁ。)


「ところで唯璃?」

「何ですか兄さん?」

「俺たちの目の前に人が倒れてないか?」

「何のことですか?」

「唯璃には見えないのか?地面に横になっている女の子が?」

「いますね〜」

「いますね〜じゃないよ。何とも思わないの?」

「えー、今更ですか兄さん?てっきり兄さんはわかった上で無視した挙句、道端で倒れているパンツ丸出しの女の子より私一筋なのかと思ってましたけど?違うんですか?」

「んなわけないよ?…あんまりエロくない下着だな」

「ソウですね。なにちゃっかり見てるんですか?ロリ下着フェチですか?」

「変な属性つけないでくれる?あの娘、ほっといちゃまずくない?何処の馬の骨かわからない男にお持ち帰りされるかも知んないぞ?」

「あれぇ〜、兄さんもしかして?ロリコンに覚醒しちゃいました?それはダメです。せめて私が兄さんを気持ち良くさせてあげます。だから、肉便器なんて拾っちゃ駄目です!」

「お前、最後の方は言っちゃダメなやつだろ?普通に助けてあげようとしてるだけなのに」

「先ほど、何回も声をかけたのに聞いてなかったので興味ないとばかり」

「悪かったよ。とりあえず、声かけて見るか〜」

「お人よしですねぇ、兄さんは」

「ほっとけ」

「でも、本当は生オナホがわりにお持ち帰りするんですよね!」

「あぁ、連れて帰るよ。」

「えぇぇぇぇぇぇ!兄さん本気ですか。やめた方がいいですよ。犯罪はダメですよ!」

「何言ってんだ。介抱するだけだっつうの。」

「遠慮なく言って下さいね、これからは兄さんの性欲のはけ口にしてくれて構わないので!もちろん、私は兄さん専用です。」

「とりあえず唯璃、公道でそういうこというのやめてもらえる?」

「えぇー何で、兄さん?」

「俺が変態にしか見えなくなるだろう?普通に犯罪じゃんか?」

「でも、お互いに同意の上なら犯罪じゃないですよ?何言ってるんですか、兄さん?」

「何言ってんの?そんなに”ナニ”が好きなのか唯璃?自重しろよ?」

「変態兄さんのばか?なんてこというんですか?今日のご飯は兄さんを食べちゃいますからね?」

「何言ってるんですか、唯璃さん?いつから、肉食系女子にジョブチェンジしたんだ?」

「昨日からですが?」

「さいですか…」


…これから、大変そうだな。とりあえず、意識がなさそうな女の子を背負って介抱でもするかな?

「大丈夫ですか?」

「……」

一応、声をかけてみるも返事がなさそうなので運ぶことにする。

隣でやけに見つめてくる視線がウザい。

「役得?」

まあ、こう言っためぐり合わせも悪くないだろう。謝礼として、背中に当たる豊かな二つの感触に身を委ねていたら、唯璃がさらりと心を読んできやがった。めっちゃ怖ぇ〜

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る