3章 過去の手紙


俺たちの両親は、ちょうど10年ほど前に他界した。今に比べると、感情の乏しかった俺は、両親の死に直面しても深く考えることができずにいた。確かに、悲しいという感情さえはあったにはあったが深くは覚えていない。両親がどんな仕事をしていたのか、全く覚えてはいないが生活に不自由がないほど資産を残してくれていたため、この年まで普通に暮らしていくことができていた。5年ほど前まで、祖父と祖母が面倒を見てくれていたが、二人とも一昨年の夏に息を引き取った。両親がなくなった時より心が成長していたのか、祖父母の葬式ではひどい悲しみに襲われた。その時から、俺が義妹を支援しながら生活をしている。流石に、両親の残してくれた資金だけでは心許ない為、日々バイトをしながら生活するようになった。

その翌年、祖父宛に両親が書いた手紙を偶然発見した。お思い出に浸ってばかりで片付けることのなかった、祖父・祖母の部屋を掃除しているときに見つけたのである。それなりに、引け目は感じたものの、大した内容じゃないものと思い、タンスの中へとしまいこんでいた物である。


昨日がちょうど、祖父・祖母が他界してからちょうど四年目にあたる年だったため、いつものように唯璃と兄妹仲良く寝ようとしていたが、なかなか眠ることができずにいた。なので、しまいこんでいた祖父宛の手紙でも読んで、思い出に浸ろうと二人で字面を追い始めた。唯璃は目を逸らさず、なぜか頰を赤らめ、こちらをチラチラ見ていた。唯璃がこうした反応を示したことは、今までなかった為、少し驚いた。ただ、二人で読むべき内容でなかったことは事実だ。

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”お父さんへ

私たちがなんらかの事故に遭い、生命を失うことがあった場合、私たちの子どもをよろしくお願いします。どうか私たちの”一人息子”を助けていただけると助かります。”息子”は、同年代の子どもの中では大人しい子だと思います。”養子の子どもも”、ご一緒に育てていただけると助かります。私たちには警戒するあまりなかなか懐いてくれませんが、”一人息子”にだけは懐いています。少しの間だけでも愛情を注いでいただけると助かります。

追伸

私たちが揃って他界しないに越したことはありませんが、心に留めておいていただけると助かります。”


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