2章 変化の兆し

現在、俺らは学校に行くまでの通学路を通っている。それは、学生にとって当たり前のことなのだが、今の俺の現状は普通ではない。なぜなら、すぐ近くに唯璃の横顔があるのだ。それも、吐き出した息が届くくらいの距離だ。高校生の兄妹で仲が良くても、普通は人一人分くらいの距離が離れているのが普通だと思うのだが、なぜか唯璃は俺にべったりである。当然のごとく、腕に絡んでくる二つの柔らかい感触に抵抗することができないでいた。

(メチャクチャ柔らかい感触。いつもくっ付いてくれるのに慣れすぎて、唯璃と離れた時に妙に虚しくなる。義妹のはずなのに、意識せずにはいられないんだよな〜。)


以前、唯璃に「恋人は作らないのか?」と聞いたところ、「私のこと嫌いなの、兄さん?」と逆に聞かれてしまった。試しに次の日、祐姉に聞いたところ、苦笑されてしまった。しかも、「怜君にそんなこと言われたくないかなぁ〜、唯ちゃんにも言っちゃダメだよ?」と言われてしまった。

(ヤベェー。もう言った後とか言えない〜。 ほんと、つくづく女心は複雑だと思ったよ。)


昨日までは、俺の隣を歩いて登校していたのにも関わらず、今日は昨日とは比べにもならないくらいベッタリである。知り合いにでも見られたら、変な噂が立ちかねない非常にまずい状況でもある。しかし、今まで彼女ができた事がない俺にとって、たとえ義妹だとしても女の子の武器である、二つの塊を押し付けられて平常心でいられるほど大人ではない。

「そんなにくっ付かなくても良くない、唯璃?」

「いいじゃないですか別に。ここが私のベストポジションです。安らぎの場所なんです〜」

「そうか、通学路にあるなんて大変だな。気をつけろよ」

「何を言ってるんですか、兄さん?。私が言ってる癒しの場所は兄さんの腕の中ですよ〜♪」

「グロ!」

「グロくないですよ。もう兄さん意地悪ですよ?そんな事だと他の人に嫌われますよ?特に女性には」

「何が言いたいんだ?」

「え〜、分かってるくせに何を言わせようとしてるんですか?」

「何のことだか分からないな〜」


そろそろ最寄りの駅までのバス停に着く頃だな。遅刻するかギリギリだと思ったがなんとかなりそうだな。

「兄さん兄さん!」

唯璃との会話も楽しいんだが、自重しないとな。毎日時間ギリギリってのは結構きついからな。

「兄さん?聞いてよ〜」

なんかさっきから唯璃が騒がしいんだが。ぴったり隣にくっついているんだから聞こえてるつうの。


「兄さん!…Hする?」

「そんな恥ずかしいこと言うなよ、聞こえてるよ。心臓に悪いな〜、全くもう」

「何を想像してるんですか?Hですね?そんなにしたいですか?私は構いませんよ?今からでもします?」

「冗談がきついなぁ、唯璃さんよぉ〜」

「私は至って普通ですよ?兄さんと違って」

「ごめんごめんって、謝るから許してくれよ」

「簡単には許しません。今日から、毎日一緒に混浴、同衾で手を打ちましょう!」

「マジで!ハードル高くない?」

「当たり前です! 私知ってるんですよ〜、いつも決まった時間にエキサイティングしてるのを。そして、オカズの大半が年下の女の子だってことも、知ってるんですからね?」

「ドウシテ、ソノコトを?」

「私に隠し事ができると思ってるんですか?実際に、私のこと意識してますよね?」

「ソンナコトはナイよ?」

「祐姉さんと反応が違うことくらい、すぐ分かるんですからね?」


(むぅ〜。これはしまった。つい、唯璃を”女の子”として意識してしまうと、祐姉と話している時よりも鼓動が激しくなって胸が苦しくなる。唯璃の前では、なんとかしようとしても裏目に出てしまっているようだ。これでは、兄失格だな。死んで人生やりなおしたほうが、よっぽどマシな気がしてきた。)


どうしてそんな気分に陥っているのかと言うと、昨夜発見したあの”手紙”のせいである。

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