1章 変わらぬ日々
「くぅ〜。……………もう朝か…」
俺こと、敷川 怜人の朝は早い。大抵、目覚ましをかけてあってもその前に起きてしまうことが多い。
ピピピピピピピピピピピピピピピピピピ
俺が起きてから、今さら仕事を思い出したやる気のない奴みたいな反応をする。
「俺以上にやる気ないよな〜、コイツ。」
毎朝、同じ状況になるのにもかかわらず、止めない俺にも責任の一端はあるだろう。だが、もしも起きれなかった時のことを考えての俺の生命線といっても過言でもない。最悪な場合、起こしてくれそうなヤツがいるにはいるが、あまり頼りにならない。つまり、自分でなんとかする他ないのである。消し忘れた目覚ましを消し、いつもと同じように学校の制服を着替えにかかった。用心深い俺は、大抵の場合就寝前に明日の行く用意を済ませておくので、朝起きてから慌てる必要がない。
リビングに入ると、香ばしい匂いが部屋の中を満たしていた。テーブルにはすでに出来立てホヤホヤの朝食が並べられていた。
「美味しそうな匂いだ〜。いつも悪いな、唯璃」
台所の方で忙しなく動いてる義妹へと声をかける。
「〜〜〜〜〜〜」
「聞こえないぞー。用事が済んでからでいいぞ?」
朝の一仕事をやり終えた義妹が足早にリビングにやって来た。
「もう起きたんですね兄さん、おはようございます。ところで、今日はいつになく早いですね?どうかしたんですか?」
「おはよう、唯璃。どうもしないさ。今日の俺、何か変?顔色が悪かったかな?」
「顔色は別段悪くありませんよ。いつもより早かったもので、今日は何か朝に”珍しく”用事があったのかと思っただけですよ。」
「”珍しい”ってひどくないか?流石に傷つくぞ?」
「変な意味じゃないですよ、誤解しないでください兄さん」
(……実は、夢の中で不思議な経験をしたとか言えないなぁ〜。思わず現実だと思って体を動かそうとしたら、自分がベッドの上にいることを忘れて、ベッド隅に頭をぶつけて起きた、なんて口が裂けても言えねぇーな。何しろ、俺の義妹は感が鋭くて的を射た答えをすぐに当てる癖に、やたらと俺のことになると説教したがるから、うまく誤魔化さないとな。)
「兄さん、どうしたんですか?私に隠し事ですか?」
「そんなことないぞ、唯璃。気にする必要がないくらい些細なことだぞ?」
「ホントですか兄さん?私には、全然大丈夫そうに見えないんですが?」
(.......ヤベェー、確実に疑われてるよ。隠し通せる気がしねぇーよ。しょうがないか、これといった危険な話でもないからいっておくか〜。
義妹に頭の上がらない俺の情けない話だ。)
「実はな、夢で不思議な体験をしちまってな。あってもないことを悪く考えすぎただけなんだ。心配させて悪かったな。」
「どうせそんなことだろうと、思ってましたよ。深刻そうな顔で、悩んでましたから何かあったのかと思ってました。大事がなくてよかったです。」
「唯璃にはなんでもお見通しってわけか。ポーカーフェースもできないとは、情けない兄ですまないねー」
「そんなことはないです。兄さん、顔が少し引きつったように見えたので葉っぱをかけただけです。」
(……大したことなくて安心。でも兄さんに隠し事はして欲しくない。)
「お前なー、それはないだろう。でもありがとうな?」
「何がです?」
「なんでもない。気にすることじゃないさ。」
「兄さんがお礼なんて珍しいですね。やっぱり、”何か”あったんじゃないですか?」
「聞こえてるじゃないか。」
「些細なことですよ。それより、兄さん早く食べないと遅刻しますよ。」
「そうだな、釈然としないが気にしないことにしておこう」
「さすが兄さんは、心が広いですね〜」
「まぁな。………ってぇ、誰のせいだと思ってるんだか。」
「まあまあ、落ち着いてください兄さん〜♪」
「もうすっかり冷めてしまいましたが、朝食にしましょう。」
「いやいや、ゆっくり食べてる時間ねぇから。せっかく早く起きても、無駄だったじゃん。もうすぐ出ないとマズイ時間じゃん」
「そんなに焦ることはないと思いますよ、兄さん。諦めも肝心です♫〜」
「それもそうか。…そんなわけあるかい!遅刻はダメだっつうの。」
「ああ言えばこう言いますねー。朝から元気ですね、兄さん」
朝からなんとも平和な会話だ。大抵の夢はすぐに忘れるくせに、今日の夢があまりにも鮮明だったためか、覚えていたことに不安を感じていたのだが。義妹との朝のやりとりの所為で、むやむやとした気持ちが少し安らいだ気がした。
「今日はせっかく、唯璃の美味しい料理を食べようと思ってたのに残念だな。」
「一々言わなくて結構ですよ〜。嬉しいけど、今それどころじゃないですよ〜」
(唯璃は頬を赤らめ、小刻みに震えていた。なんて正直なやつ。)
「自分から言い出したのに、いつになく急いで食べてるなー。喉つまらすなよ?」
「んんんん?んんんんんんんんん?」
「言いたいことはわかるけど、せめて食べてから話してくれないか?」
「んんんん?!」
「そうかも知んないが、別に今更急ぐ必要ないだろう?」
「んんー?」
「どうせ遅刻するの分かり切ってるし、ゆっくり行こうぜ?なぁ?」
「………んっ……それはダメです。っていうか兄さん。私が言いたいこともすぐ理解してくれるんですね。…もしかして相思相愛ですか?」
「ん?それはないわ〜。俺ら義兄妹じゃん。あり得なくない?」
「それはあまり重要じゃないです。敷川家ではこれが普通です!」
「普通の意味を調べなおしてこいよ〜。」
(…普通に話してるはずなのに疲れんなー。本気でもないくせに、妙に唯璃の顔が赤いのが気になるが気にしたら負けの気がするから聞くにも聞けない。)
「冗談はさておき、兄さん早く学校行きましょう。」
「まあ、そうなるわな。それより、俺は食べてすぐ行けるわけだが、唯璃は大丈夫か?食べてすぐ行けそうか?」
「あーっ!! ちょっと待って下さい兄さん。行く用意すぐ済ませてくるから、待っててくださいよ?」
「はいよ。俺、まだ朝食食べてる途中だから、さっさと行く用意してこいよ。」
(………はぁ、朝から騒がしいこったぁー。さすが唯璃の作ってくれた飯は美味いなぁ。どうして義妹なのやら。さてと、俺ももうすぐ出かけないと本気でやばいからなぁ。唯璃には悪いが、もうそろ出かけるかな?)
一応、朝食を作ってもらったお礼として、食器は洗って片付けておいた。あんまり義妹ばかりに、やらしてはいけないからな。さっきから、唯璃がバタバタしているが、そんなに急ぐことか、疑問に思えてならない。
「唯璃ぃー、先行くぞー?」
「待って、兄さん!待ってください、お願いします!」
「必死だな〜。仕方ない待っててやるよ、急げよ?」
「はっはっはっはっはっは〜、兄さん早すぎですよ?さっきからあんまり時間経ってないじゃないですかぁー。意地悪ですよぉー」
「そう言うなって、この年で義妹と登校って結構恥ずかしいんだからな?」
「誰も見てませんて。心配しすぎですよ兄さん。」
「そもそも、一緒に登校するようになったのって兄さんの案じゃないですか?もう忘れたんですか?」
「覚えてるような、覚えてないような感じだな。」
(…確かに、変な男に付け込まれたり、付き纏われたりするのは無性に腹が立つので、安全第一と言えばそれまでだが。どうしてこうなったのやら?はぁー)
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