雷の剣
「ときにダオレ、先ほど言っていた雷の剣とは何だ?」
「アルチュールは地獄耳ですね。この図書館の歩き方ですよ、そうするとすべての部屋を効率よく巡れるのです」
ダオレは白状するかのように話した。
「ぼくの読みが当たっている以上仕方ないでしょう」
「……もうダオレを責めているときじゃないんじゃないのか? 早くその本とやらを捜してゴーシェ達のもとに戻った方が良い」
「オリヴィエ、別に私はダオレを責めてはいないぞだが疑問が多すぎる。これは神の右手にも通じる知識――」
「砂漠の行倒れが知っていたらおかしい、そう思っていますねアルチュール?」
「このようなところで言い争いをしている場合ではないだろう!」
三人の男の声は静寂のホールに木霊した。
「ぼくが神の右手について明かせないこともあなたは知っています。ただここを抜けるためにはそれも必要なんです!」
滅多に大声を出さないダオレが感情的になっている様は少し異様でさえあった。
「――いいだろうこうなったらとことん地獄の果てまで付いていこうではないか、ただしダオレ途中で裏切るものならば、」
そう言ってアルチュールは剣を抜いた。
闇の中白刃は煌めく。
「このマサクルの錆にしてくれる……!」
ダオレはしばし目を伏せたが、まっすぐアルチュールを見つめ返し頷いた。
「男に二言はない」
「して、雷の剣はどの方向を指し示しているのだ? 道は先に三つあるが?」
オリヴィエはもっともなことを尋ねた。
「――基盤の前は栄光、こちらです」
またもダオレは先行して向かって左の径を歩きはじめた。
アルチュールとオリヴィエはまだ疑問に思いながらも、後ろを付いてゆく。
またもや闇の中を進むと巨大な円形の部屋があり、そこには巨大な両性具有の人物のモニュメントが、あって円形の光の射す中ダオレが立ち尽していた。
「やはりこの部屋は言語についてです」
ダオレは書架に昇ると一冊本を抜いて戻ってきた。
「言語? 言葉とは『われらの言葉』意外に存在するのか?」
「神々の時代にはそうですよ、アルチュール。途方もない昔ですが……」
「A rose is a rose is a rose is a rose.」
そしてそのダオレ以外には全く意味不明な、古語ですらないそれをダオレは発音したが、アルチュールにもオリヴィエにも意味不明なものであった。
「……話を変えますが、本占いというものがありましてぼくはこれを信じていません」
「本占い?」
「はい、適当に取った一冊の本の頁を捲って目に入った一行が未来を示唆する。そんなこと莫迦らしいでしょう? オリヴィエ」
「如何にもだが……」
「しかし今のこの薔薇についての詩編には正しい気がしてならないのです」
そしてダオレはその本をもとあった場所へ戻すと、こう言った。
「この栄光の言語の部屋もはずれのようです、残念ながらぼくたちには時間がない先を急ぎましょう」
「元来た道を除いても四本も道があるぞ?」
アルチュールは疑問を呈すが、
「正しき道は勝利へ通じる径のみ、こっちです」
ダオレは右の径を進みだした。
「しかしダオレ、何故その順番に拘るのだ?」
「おそらく罠があります、ぼくたちが安全に部屋を巡っているのも順番通りに径を歩いているから――」
(しかし生命の樹は流出であり遡ってはならないと言われています、なにか悪いことが起こらなければよいのですが……)
次の勝利の部屋のモニュメントは裸の女性でこれにはアルチュールもオリヴィエも面食らった。
「かかかかかかか、斯様な刺激的な像を設置するとは知の結晶にあるまじき破廉恥!」
「なに慌ててるんすか、アルチュールさん……」
その二人を余所にダオレは本の内容を精査していた。
「――これは、芸術ですね」
「むむむっ、先ほどの文学とどう違うのだ」
「文学は文章で書かれた作品ですがここに載っているのは、平面や立体の美術ですよ、アルチュールさん。あなたの屋敷にも沢山絵があったでしょう?」
「父の肖像か」
「それもありますが他にも風景画とか」
「私はそのようなものは解さぬでな、単なる丁度として見ていた」
「ぼくが見る限りどれも一級品の芸術品でしたがね」
「貴族というのは眼が鈍ってしまうものなのだな……こちらはこの女性の像を見ているのに忙しいのだが」
「なにもおかしなことではありません、オリヴィエ。さあ、次で真ん中の六番目の部屋の筈ですよ? こちらです付いてきてください」
「七番目の部屋が勝利でしたね? では六番目の部屋は」
「美です」
オリヴィエの問いにそう答えてダオレはそこへ、次の円形の部屋へ踏み入った。
ところがそこにはもっとも奇妙なモニュメントがあった。
それは王、処刑された神、子どもの姿である。
「これが美か?」
アルチュールの目は疑念に満ちていた。
「芸術に照らし合わせれば……ある種の美でしょう」
「まあまあ、言い争っても意味がないここは何の部屋なんですか? ダオレ」
「産業ですね、オリヴィエ」
「産業? 農業と工業以外に産業が? それが特筆すべきものか?」
「神々の時代には、です」
しかしまだアルチュールは納得できないようであった。
ダオレの弁によるとここで半分だという、まだこのような道が続くとなるとアルチュールもオリヴィエもげんなりしていた。
一方ダオレにはある懸念があったが、それはまだ口に出来ぬものであった。
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