8.奴隷王オベール
上陸
潮の流れに乗ったので、後半日もすれば、目指す奴隷王の島へ到着するだろう。
海を眺めているオルランダは
「しかし、またオルランダは男装か……哀れだな」
そんな彼女を見てアルチュールは呟いた。
「そうか? そんな元奴隷なんて荒くれ者の島に行くんだから、女と判ったらまずいんじゃないのか? これでいいだろ」
「思えば軍港に彼女を置いてくるという選択肢は無かったのか、ゴーシェ?」
「もう付いてて来ちまったモンを置いてくっていうのかよ! 彼女が望んだことだろう」
「ちょ、ちょっと私の事で揉めないで二人とも……行くって決めたのはわたしなんだから」
「我々はオルランダを連れまわし過ぎたのかも知れない、がらくたの都に隠遁させるという手もあったのに」
「あれは不可抗力だ!」
そう、大聖堂の地下牢にオルランダは誘拐されていたのだから――
「あのときオルランダさんを誘拐したのはいったい誰だったんです?」
ダオレが口を挟んだ。
「それが……よくわかってないんです、シグムンド公子は
「アーシュベックは認めていたが?」
ゴーシェが声を荒げるもオリヴィエは
「ひょっとしたらシグムンド公子たち『王討派』の自演の可能性もある……」
「今となっては闇の中ですか、しかしアルチュール。『王討派』についてそろそろ知ってることを喋ってくれてもいいのではないですか? あれは都に居たから口を噤んでいたわけで――」
ダオレの問いにしぶしぶアルチュールは口を開いた。
「『王討派』はシグムンド公子以下数人の有力貴族としか知らぬ、トップが誰かも判らぬ。ただアルテラ25世とは相対する者の様だがな。そして権力というよりも影響力があるのは間違いない」
「影響力――ですか」
「またぞろ都にはそんなのが居んだろ、なし崩し的にとはいえオルランダを連れてきてやっぱり良かったじゃねえか」
「ゴーシェ……」
一段と強く風が吹きぬけた。
ゴーシェはオルランダの小さな体を抱き寄せる。
「大丈夫だ、オレが守る」
最早冷やかす者も無かった。
ゴーシェの決意は皆が知っていた。
「山がちな島影は見えてきましたがまだだいぶありますよ、このまま夜になりそうです」
「却って都合がよいな、夜影に乗じて上陸できれば――」
「まるで歓迎されねえみてえな言い方だな、『王国』という共通の敵がいるんじゃねえのか」
「それがその……」
セシルはもじもじと何か言い淀んでいた。
「どうしたセシル、何か言いたいことがあるのかね?」
「よい、言ってしまうがよい」
そう、冷たくミーファスは言い捨てた。
「昨晩ミーファスさんが言っていたんです、奴隷王の島で我々は殺されると……でもそんなことありません! 嘘だと言ってください!」
「………………」
「予感ですかミーファスさん」
珍しくダオレは怖い顔でミーファスに向き直ったが、彼はどこ吹く風であった。
「……確信だ、我々は殺される」
「そんな……!」
オルランダは叫んだ。
「わたしとオリヴィエは空白地帯を逃げ回っていた時、敵の
「そのような超自然の存在が奴隷王の味方をして、我々敵対しているなど可能性としては低いですよ。いくらミーファスさんの勘がよくいらしても」
「その勘とやらにいくら議論を重ねても終わりは見えない!オレはもう寝るぞ!」
「ゴーシェ……」
「ゴーシェの言うとおりだ、ミーファス、貴方には信頼を置いているがこればかりはわたしも俄かには信じがたい。考えさせてくれ――」
アルチュールもそう言うと毛布を被ってしまった。
「あわわわわ……ごめんなさいっ」
セシルはもはや詫びるしかなくこの場を収集するのは既に不可能であった。
夜は平等に訪れる、侵入者にも、島の支配者にも、それを知る者にも……
無口な船上で一行は曇天が星々を覆い尽くすさまを視、これからの行く末に不安を抱くしかなかった。
翌朝早く――
島の入り江、階段になった港に舟は辿り着いていた。
一番に起きたのはダオレで皆を起こして回った。
尤もセシルを起こすのには骨が折れたが。
階段を昇ると高い金属の門が聳そびえていた。
門の上には古語で何か格言が書いてある。
「なんつう島だこりゃ――ミーファスの言うことにも一理あったわけだ」
ゴーシェはあからさまに呆れていた。
「門には古語だな? 奴隷というのは思ったよりも教養があるようだが……何と書いてあるのだゴーシェ?」
「『この島に入る者、一切の希望を捨てよ』だとよ」
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