奴隷王の島

 一方でオルランダはセシルと共に軍港の旅籠に連れてこられ、軟禁されることとなった。

 勿論、セシルとは別室だ。


「はあ……全くゴーシェ達とは別れ別れだし。オルランドさんが悪い人じゃないってのは解ってるんだけど」


 どうしようもない。

 珍しくアルチュールさんが感情的になっていたし、それはミーファスさんのことだから?

 あの二人ってもしかして……

 出来てる!?


「あのなあ」


 いえいえいえ、美しい男性同士そういう嗜みも必要なんじゃないかしら?


「思春期の小娘によくある妄想だな、それって」


「ええ!? っていつから居ましたオルランドさん!」


「俺は悪い人じゃないってところからだな」


 あーもうっ、一から十までわたしの独り言と妄想を彼に聞かれてた!

 恥ずかしいったら、ありゃしない。


「何真っ赤になっているんだ? 別に聞かれて困る部類の独り言じゃないだろう、最後の部分以外は」


「その最後の部分が困るんですっ、当人には黙っていて下さい! 絶対ですよ!」


 だがオルランドは何も答えず、自分と同じ顔で微笑むだけだ。


「それより旅籠に風呂があるから入ってこい、で着替えだがお前の着るような服は例の船からの戦利品くらいしかないな……」


「それって、今着ているサイズの大きな寝間着とガウンですか?」


「どうにも同じ人間が注文させたらしいドレスばかり何着か出てきた、お前にゃ大きい。かといって男装さておくわけにもいかないし」


「いいですよ、どんとこい男装。もう慣れましたから」


「そうか? なら男の子の服だな! まあ女の服はいずれにせよ数が限られてるし実用的じゃない」


「軍港ですものね……女性はあまりいないのでしょう?」


「そうだな、ここにるのは殆ど男だ」


「この豪華なドレスはどこかで売ってしまうといい……そう思ったが足がつきそうだ」


「と、いうと?」


「これは絹の縮緬ちりめんに白黒の市松模様に花柄があしらわれた生地だぞ? 余程の洒落た貴婦人の注文だ。それもあのゴーシェほども身長がある、な」


 オルランドはその細身のドレスを広げてみた。裾に黒いレースがたたき付けられている。


「お前さんのガウン然りこのドレス然り、注文主の女はいったい誰であろうな?」


「わたしも王家の人々の事はよく分からないのです、一番詳しいのはアルチュールさんですけれど彼を解放しては貰えないんですか?」


 オルランドはしかしかぶりを振った。


おかはレオポルドの権限だ、なにあいつは悪い奴じゃない、だが如何せんあたまに血が上り易くてな――時が来ればアルチュールとやらは解放されるさ、あんたの想い人もな」


「そそそそそそそそんなんじゃないですっ!」


「それじゃ肯定してるようなもんじゃねえか……」


「どれ男装ねえ……おう先に風呂入ってな。覗かねえよその間に着替えを用意しとくから」


「あ、ありがとうございます」


 暫らくしてオルランダが風呂から上がると、そこには本当に子供服の男の子の服が置かれていた。

 オルランドは約束を違わなかったのだ。

 着てみるとどうにも船の下働きの小僧といった雰囲気になった。

 自分は金髪だから余計に彼らの船の者に見える。


 しかし同じ人間なのにシューク黒髪の民だのサーラム金髪の民だの差別し合っているのは不自然に思えた。

 だってあのミーファスが以前言ってたじゃないの……天は天の上に人を作らずって。


 すっかり髪を拭いて脱衣場から出てくるとオルランドが待っていた。


「積もる話もあるだろう、酒場に行かないか」


 と、強引にオルランダの腕を掴むと屋外へ連れ出した。

 そのまま彼女はなすがままに酒場へと連れてこられてしまう。


 もう宵闇が迫るバーは船乗りたちでひしめき合っていたが、オルランドの用意した服のせいで都合よく今は彼の部下にしか見えなかった。


「飲み物は?」


「み、水……」


「真水はない、おいマスター、ラム酒とミルクをくれ。こいつはまだ餓鬼でな」


 店中にどっと笑い声が広がった。


 いいの、いいのよ女だってバレなければ!


「さてオルランダ」


 オルランドは喧噪のなか小声で話始めた。


「以前我々の干渉していない奴隷たちの島があるといったな」


 オルランダは頷いた。


「その島を治めるのは奴隷王オベール、もとは『王国』のガレー船の漕ぎ手だった男だ。そいつが数多の奴隷を一代で平定した。たった十五年ほどの話だ」


「じゃあ、そのオベールは若いの?」


「行っていて三十歳ほどらしい」


「どうしてオルランドはその話をわたしにしているの?」


「さあな、だいたいそのレオポルドの捕まえた男からの情報を聞いて察しがついた。シャイアムなんかに居てもなんの展望も開けないと俺は思っている」


「オルランド……」


「お前たちがどうするかは自由だ、しかしこれはしばらくの間お別れになるな。オルランダ」


「………………」


シューク黒髪の民達を解放するようにレオポルドに話しておく」



 何故か、この青年とは再び会い見える。


 そうオルランダは確信していたのだ……

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