再会

 シャイアムは軍港というより寒村と呼んだ方が相応しい港であった。

――少なくともゴーシェ達の眼には。


 だがベテルギウス号が入港すると住民総出で歓迎し、オルランド一行の無事を喜んだ。

 その住民も役数十人といったところであったが。


「オルランド!」


 こちらの方が船長と呼べそうな中年の海将然とした男が、桟橋から彼へ駆け寄った。


「レオポルド、久しぶりだな。シャイアムの守りはどうだ?」


「特に変わったこともないさ、二人シュークを捕まえたくらいで……おっとそちらは大漁だな」


「あの? シュークってなんなんですか?」


 セシルは子供だから臆面もなく訊ねると、オルランドは呵呵と笑った。


「黒髪の民のことさ、お前たちも俺たちをサーラム金髪の民とか呼んでるだろ?」


「サーラム?」


 初めて聞く名だ、とばかりにゴーシェは訝しがったがオルランドは続けた。


シューク黒髪の民たちの俺たちの蔑称じゃないか、まさかその呼び名まで隠されているのか?」


「いや差別する意図は全くないのだが私は初耳だぞ……」


「そういう意味でと言われたのか、なるほど」


 ゴーシェとアルチュールはなんだかこの金髪の連中の間で居心地が悪いようだ、無理もない。


「俺も差別する意図はまったくないさ、ところでレオポルド。捕まえた二人の黒髪連中とは?」


「ああ、なんだか体中火傷の跡だらけのと若いのと二人だけだ」


「ちょっとそれって、ミーファスとオリヴィエ!?」


 思わずオルランダは口を挟んだ。


「こちらのお嬢さんは? ははっ、まさかお前の生き別れの妹か?」


「その冗談を言われっぱなしだ、名前までオルランダだから堪ったものじゃない」


「うむ笑って悪かった、オルランダさん。しかしまあ……確かにそのシュークはミーファスとオリヴィエという二人組だ。何故知ってる?」


「何だと!? 逢わせてくれ頼む……! して二人は何処に!?」


「落ち着けアルチュール、こちらのレオポルド殿は二人を『捕まえた』と言ってるんだぞ、大方牢だろ」


 ゴーシェは殊ミーファスのことになると、感情的になりがちなアルチュールを窘めた。


「その通り昨晩この港に小舟で立ち入った故、捕縛してあるが……安心しろ。栄養状態が悪かったから食事はたっぷり与えてある。なに歓待はしてるんだ」


「牢に入れておいて歓待だと!? 貴様抜け!」


 アルチュールがマサクルを抜刀しそうになったので、ゴーシェとダオレは圧し掛かって押さえつけてなんとか阻止したが、遅かった。

 どうやらレオポルドは軍港の自警団帳も兼ねているらしくあっという間に金髪の屈強な男たち数人に囲まれてしまった。


「そんなに逢いたいなら逢わせてやるさ、そのシューク二人と男一人を例の牢へ入れておけ!」


「おーお、恐ろしい」


 オルランドはその様子を黙って見ているようであった。


「止めないんですか!? オルランドさん!」


「アルチュールさまー!」


「陸ではレオポルドの方が強いのよ、さ、嬢さん、坊主、こっち来な」


 桟橋の上でオルランドは無理にオルランダとセシルを連れ出した。


「くっそ! 合流できたと思いきや、また別れわかれかよ……!」


 無理やり運ばれながらゴーシェは毒づいていたが後の祭りであった。




※※※




「シュークの癖にいい度胸だ、ちょっと牢ここで頭を冷やしてろっと」


 ゴーシェ、アルチュール、ダオレの三人は乱暴に半地下の牢に詰め込まれると、大きな音を立てて鉄格子が閉められた。


「私はボレスキン伯爵だぞ! こんなことをして済まされると思ってるのか!?」


「アンタは元伯爵だろーが……済まされるし、ここは異民族の領地だ『王国』での常識は通用しねーよ」


「……~っ! そうであった! 私は友のために爵位は捨てた男! 何を今さら」


「あの……すみませんアルチュール、隣の牢に居るのミーファスさんオリヴィエさんじゃないですか?」


「なんだと!!!」


「しっ、声が大きいですよ。そうおれですオリヴィエです久しぶりだゴーシェ」


「ああ、久しいなオリヴィエ、ミーファスは無事なのか」


「無事と言っては無事なんですが精神的に参っていしまってどう元気づけたらいいか……」


「精神的に参ってしまった? どういうことです?」


「それが……


地上を征った汎神論者達への正規軍の残党狩りが凄まじかったのです。

おれたちも隠れたり、奇襲したり応戦しましたが、悉く読まれていました、まるでふしぎな力でも使ったかのように……

おれたち二人が生き残ったのは恐らく敵の温情にかなにか、思惑に拠るものに違いないです。

二人だけになった途端、あとの二十余人をすべて殺し尽くしてから追撃が止みましたから……

そして東の果てに着いたおれたちは、打ち捨てられた舟に乗って死ぬ覚悟をして数日漂流し……この村へ辿り着きました。


                         そこにいたのがあの金髪の連中ですよ……」



「ふむ、そうなのかミーファス?」


「………………」


「彼はは自分が生き残ったことに自責の念を感じていて、塞ぎこんでいます。とても」


「ミーファス!」


 だが紫の瞳はうつろに宙を見つめるだけであった。


「……こんな時に何を言っても無駄だということは、男である我々が一番よく分かっているのではないでしょうか?」


 ダオレの弁に一同は押し黙ってしまった。


「ではどうしたら!?」


「落ち着いてください、気持ちはわかりますアルチュール。やはりここは元を断つのです」


「元を断つ?」


「やはりどうにかして現国王の勢力を討ちましょう」


「ドンパチやるしかねえのかよ……」


 ほとほと嫌そうにゴーシェは言うのであった。

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