マンティコアとの戦い(3)
「どうやら熱線が吐けなくなっているようですが……迂闊に近づくのは危険でしょう前足の爪が三本ありますからね」
ダオレはそう分析した。
「セシル、もう一度頭を狙えるか?」
アルチュールはセシルに声をかけた。
「やってみます!」
「オイオイ、オレは戦力外か」
「いや、ゴーシェはマンティコアの脚をを引き付けてもらわないと……遠くからでいいですから彼奴の注意を逸らしてください、ゴーシェ」
「畜生、やるしかねえのか!」
「来ます!」
まずマンティコアの腕が一本ゴーシェを狙ったがそこは、ゴーシェ、ちょこまかと逃げる。
その隙にセシルは矢をつがえ、またもや怪物の顔に命中した。
黒煙を吐いて呻くマンティコア。
アルチュールはその隙を見逃さず、腕の一本をマサクルで切り落とし、無力化した。
「いいぞ!」
セシルは再び矢を放つ今度はマンティコアの耳らしきところを潰すことに成功した。
――これでいい、皆さん正面は引き付けてくれている!
ダオレは鉈を抜くと跳躍し一人マンティコアだったそれの背後に回り込んだ。
「矢張り……」
そこには白い脊椎と黄色い神経の束が血にまみれて、マンティコアの通った後を如実に語っていた。
ダオレはそこを躊躇ためらいなく鉈で切り刻み始めた。
マンティコアが暴れはじめたのでゴーシェとアルチュールたちは面食らったが、今が勝機と斬撃と矢を浴びせ始める。
そしてダオレがある程度脊髄を滅多打ちにするとマンティコアは動けなくなった。
「やったか!」
マンティコアのどす黒い血に塗れてアルチュールは叫ぶが、今度こそ地響きがして天井が崩落を開始した。
「まずい! ダオレ戻ってこい!」
――だがその声より一瞬早く天井が剥がれ落ちた。
それにより完全にマンティコアは絶命したが細かい天井の欠片が一斉に落ちてきて、ダオレはあっという間に見えなくなった。
それより一刻かけて、目を覚ましたオルランダ含め一行はようやくダオレを掘り起こすことに成功したが、かなりひどい怪我を負っていることは明白であった。
アルチュールはダオレの着ていたシャツを脱がすと、そこには打撲と骨折の跡がありありと見て取れた。
「おい、診せてみろ……」
「なんだゴーシェ、お前医学の知識があるのか」
「応急処置なら養父に習っている」
しかしこれはゴーシェの見立てでも悪かった。
ダオレは蒼白で、浅く息をしているばかりだ。
折れた肋骨が内臓に刺さってないだけマシだったが、ひどく頭を打っている様子だ。
「で、頭を打っているとどうなのだ」
「頭蓋内で脳を出血が圧迫すると脳に異常を来す」
「さっぱりわかりませんけど、ヤバいってことじゃないですかぁ~!」
「……そんな!」
オルランダはひどく動揺した。
いつも快活だったダオレ、強かったダオレ、正体不明だけど頼もしかったダオレ……
そんなダオレが彼女の中でぐるぐると周っては消えて行った。
「……ダオレ、ごめんなさい」
すると、絶命したマンティコアの血溜まりがゆっくりと螺旋を描き、触手のようにダオレを包み始めた。
「神の左手か……!」
アルチュールは再三驚いているが、もっと驚いているのはセシルだった。
「なんです? なんですこれ!?」
だがマンティコアの血液に包まれたダオレはゆっくりと浮き上がり、怪我した個所をその触手のような血が癒しはじめた。
そして半刻も過ぎるとダオレの傷はすっかり回復し、触手は彼をまた地面に下した。
「ん……あれ?」
「ダオレ!」
「ダオレッ!」
「ダオレさん!」
ダオレは目を擦ると上半身を起こした。
「あれ? ぼくは……マンティコア共々瓦礫に潰されたのでは?」
「助かったん だよ、オメェ助かったんだよ!」
「オルランダが神の左手を発揮してお前を助けたのだ」
「……そうでしたか、オルランダが、ありがとうございます」
「よく分からないけど、なんだったんですか、この力?」
セシルが疑問に思うのもさもありなんだった。
「それについては私が説明しよう――」
その晩、長く話し合いは行われた。
また一行の水不足も解決された、通路の脇を流れる微かな水脈を元気になったダオレが見つけてくれたからである。
「この水脈は北の方角に向かって伸びています」
「北……空白地帯の北、全く何があるかわからぬ。地上に出ぬ方が得策だが、食糧が底をついてきたぞ」
「出られそうなところで一度地上に出てみましょうか?」
「其れしかねえな」
オルランダは神の左手を使った疲れから寝込んでいた。
「食わねえのも二日が限界だぜ、なんとかしねえとな……」
「しかし野生動物は何らかの原因で汚染されていて口にすることはできませんよ」
「オレは魚を食って育ったが、そういや都では家畜でも育ててるのか? アルチュール」
「そうだ、ヨツメウシという家畜が好んで育てられている。ボレスキン領にも沢山いるぞ食肉用だ」
「ヨツメウシ?」
ゴーシェは訊きかえした。
「そのままだ。目の四つある牛だ」
――翌朝、一行は水脈に沿って地下通路を歩き続けることとなった。
「海抜が上がっている気がする」
「海抜? なにそれゴーシェ」
オルランダの問いにアルチュールはにこやかに笑った。
「つまり海面よりも、標高が高い所という意味だよオルランダ。確かにここは海抜が高そうだ。地下を行くうちに山の中に入っているのかも知れない」
「水があるということはそうかもしれませんね、乾燥した大地でも山には雪ないし雨が降りますから」
突如眩しい光が見えてきた。
「外だ!」
セシルは駆け出した。
「おい、セシル何があるか分からんぞ、勝手に先行するんじゃない」
「待て、オレが追う」
セシルを追って走ったゴーシェが眩しい外の先に見たのは……
無限に広がるとも思える山脈と僅かな緑の盆地であった。
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