マンティコアとの戦い(2)
「とりあえず逃げて!」
前を走るダオレの絶叫が聞こえた。
オルランダに至ってはもう息切れしか聞こえてこない、それほどまでにマンティコア移動速度が速いのだが、ところどころ通路に引っかかるために時々不快な呻き声を上げては、天井が後ろで崩落する。
そしてその度に吐かれる白さを帯びた灼熱。
オルランダは背後にものすごい熱の塊を感じ、また必死に走った。
今のところ、足の速さから、ダオレ、アルチュール、セシル、ゴーシェ、オルランダの順で走っていた。
「もっと早く
アルチュールが檄を飛すが、既に体力のない後ろ二人は限界だ。
「はあ、はあ……もうダメかも……」
「……オルランダ! 神の左手で何とかならないのか!?」
足の遅いゴーシェもそろそろ追いつかれそうだ。
「無理よぉおおおお……」
「炎が来るぞ!」
「伏せろ、オルランダ!」
「オルランダさん!」
そのとき白い光が眼前を覆った。
「……っ、ゴーシェ?」
倒れ臥したオルランダの上にゴーシェが覆い被さり、彼女を火焔から守っていた。
ところどころゴーシェの旅装束が焦げている。
「莫迦だな……守るっつったろ? お前は安心してろ」
そう言うとゴーシェは微笑んで見せたが、
「見せつけますけど、マンティコアが来ますよ!」
セシルはもう一本矢をつがえた。
それが今度は飛び出た異形の目に命中する。
マンティコアは痛みに吠え猛った。
「いまのうちだ、オルランダ。走れ!」
駆けだした二人はようやく、先行する三人にようやく追いついた。
その場でマンティコアは暴れながら落ちてくる天井に打たれながら、礫岩に埋もれはじめた。
「このまま行けるかも知れぬな」
アルチュールは肩で息をしながら吐き捨てた。
「そう簡単に問屋が卸すでしょうか? しかし大丈夫ですかゴーシェ。嗚呼、後ろ髪が少し焦げてますね……あれは火焔というよりは熱線のようですから」
「熱線!? 勘弁してくれ。野生動物以上の化け物だ今のところセシルの弓以外で、こちらは傷をつけられてねえ」
「へっへーん♪」
セシルは嬉しそうに鼻歌を歌う。
「おい、調子に乗るなセシル」
「まあいいじゃないですか、先ほどの矢は目に名に命中したようであの通り――」
大分マンティコアは天井と壁の破片の埋もれながら、熱線を吐き続けていた。
「あれはかなりエグイ絵面だが、勝てればいいんじゃねえのか?」
「ゴーシェの言うとおりだ、なんとか最小の手で勝つことも戦だぞ。特にあんな化け物に対してはな」
「と、言うことはアルチュールさま?」
「うむ、逃げるにしかずだ」
「そうですね」
「オルランダ、歩けるか?」
「なんとか走れるわよ、神の左手は……今は使えそうもないわね」
「行くぞ!」
アルチュールの号令で一行は尚も暴れ続けるマンティコアを放置して、駆け出した。
取りあえず行ける方へ、マンティコアが来ても対処できる方へと。
そして地下通路を半日かけて1ガラム程度も移動しただろうか。
再び夜になっていた。
特にオルランダの疲労の色が濃い。
「仕方ない、ここで陣を張ろう」
オルランダはアルチュールの背で眠り続けていた。
彼女を下ろし火を熾すと、一行は僅かとなった水を回し飲みした。
「そういえばゴーシェ、アルテラ王は本当の弟か、そう言っていたな」
「ああ」
「半分だけ正解だ、彼とお前は母親が違う――先代アルテラ24世には五人の子がいたが、残っているのはお前を含めて三人だけなのだ」
「死んだか……」
「お前も死んだことにされているから、表向きには二人、アルテラ25世アシュレイと、シグムンド公子しか残っておらぬ」
「どうやら謀殺されたとか医学が発達してないのか『生命なきものの王の国』は野蛮とみえる」
「言ってくれる……わが麗しの君、エクスクラモンド」
「エクスクラモンド? 誰です?」
ダオレが口を挟む。
「アシュレイの姉さ、四年前公爵家に嫁いで亡くなった……私より一つ上で美しい人であったよ。無論私にその結婚が止められるわけもない、彼女に
「ゲッ、オレの兄弟が男だらけとはな……」
「お前が宮廷の権力争いに身を置かずに良かったと思える時も来る、シグムンドのような男と朝食を共にするのだぞ?」
「完全に願い下げだ」
「シグムンド公子は誰の子なのです?」
「ああ、あれは
ダオレは指を折って数えはじめると矢継早にアルチュール質問した。
「一人男子が足りなくありませんかね?」
「ゴーシェの弟か、あれは赤子の時分に亡くなったのだ」
「チッ、まだ弟がいたか……」
そのとき、
地響きが通路を揺らした。
「何だ!?」
猛スピードで何かこの世の物とは思えないものが追走してきた。
それは下半身の千切れたマンティコアだったものだった。
尚も出血し続け、熱線を吐けなくなりながらも、歪んで癒着した口からは黒煙が立ち上っている。
「ばけものめ……!」
アルチュールは吐き捨てるとマサクルを抜いた。
「どうやってこんなの倒せばいいんでしょう?」
あの冷静なダオレが一番パニックに陥っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます