少年探偵
セシルはアルチュールの言いつけでメイド服を脱ぎ、少年らしい南方趣味のチュニックに着替えさせられた。
「男の子に戻ったぞ!」
得意げに言うが、少女に見えなくもなかった。
牢にやってきた彼は人払いをし、3人だけで話をすることにした。
「で、どうするんです? 子爵さまの死体を探せばいいんですか?」
「いや、探す必要はないよ、遺体が出現するのを待てばいい」
「どういうことだ? ダオレ?」
ゴーシェは面食らって訊いたが、ダオレは全く動じなかった。
「子爵の遺体は消えたり出現したりする、ならば探す必要はない。なぜなら何か法則性をもって動かされているはずだからだ」
「なるほどー」
セシルは得心した。
「そうすればセシル、君の推理で次に子爵の遺体がどこに出現するか推理することも可能じゃないかな?」
「……ダオレ、おめーどこでそういう知識身に着けたんだ?」
ゴーシェの突込みを無視してダオレは話を続けた。
「子爵の遺体が移動するのはその必然性があるからだ、犯人は無意味な行動を取らない」
「そうかしら?」
「アーリャ様!?」
いつの間にか3人の男で白熱していた後ろにはあの子爵の婚約者である、令嬢、アーリャ・ミオナが立っていた。
「いけませんね、こんなむさくるしい所に。お戻りくださいませ」
「わたくしは亡くなったマキシムスの婚約者、彼の遺体を探すなら協力しないこともないのよ?」
「残念ながら貴女の協力は必要としてませんよアーリャ嬢、お部屋にお戻りください」
ダオレは慇懃なほどの丁寧さでアーリャ・ミオナに譲らなかった。
「アーリャ様、ここは危険な荒くれの巣、ささ一刻も早くお戻りください。番兵! アーリャ様をお部屋にご案内しろ」
セシルが言うや否や階下にいた牢番たちがぞろぞろとやってきて、アーリャを一瞥するとそれは驚いていた。
「そりゃあ、お姫様の立ち入る場所じゃねえもんな」
ゴーシェは鼻で笑って抵抗するアーリャ見送った。
「しかしアーリャとかいう女性にばれたのは少々まずいかもしれません」
「どういう事だダオレ?」
「セシルの行動が制限されますよ」
「アルチュール様がどこに立ち入ってもいいと言われたのですが」
「アーリャの命令なら話は別でしょう、セシルには隠密行動を取ってもらう必要があるかも?」
「えっへん、隠密行動なら任せてください」
「ホントかよ?」
「我々が牢から出ることができない今はセシルを信じるしかないでしょう」
そう、ダオレが呟く間もなくセシルは元気に牢を駆け下りて行き、あっという間に見えなくなった。
「大丈夫なのか? あいつ」
「まあ、セシルを信用しましょう今は彼しか頼る者がいませんから」
――子爵の遺体は現れる。
あのダオレという男は確かにそう言った。
だが考え方を変えればそうなのだ、遺体が消える、というよりは現れると考える方が追いやすいのだ。
「ダオレ……あのターバンの男何者だ?」
メイドの格好を解除してしまったので、今度は下働きの小僧のように自分が見えることにセシルは薄々気が付いていた。
「おい! そこのお前!」
不意に呼ばれてセシルが不機嫌に振り返ると一人の騎士がいた。
こいつは見覚えがある、アルチュールの様の部下の一人ではないか、まだ身分にいい気になっている阿保の一人だった。
「なんでしょう騎士様」
「ボサっとしてないで馬に水と飼葉をくれてこい、今直ぐにだ」
「はい畏まりました」
丁度いい、まだ遺体は馬小屋には現れていなかったので、見に行く良い口実ができた。
果たしてセシルが馬小屋に入ると大きな軍用馬とさらに大きな荷役の馬が居た。
小屋中に馬糞の臭いが漂っている。
「ん……?」
誰かが藁をかき分け暗い馬小屋から立ち去ろうとしていた。
賊か! 格好のチャンスとばかりセシルはその人物を窺ったが逆光で顔が見えず、おまけに見失ってしまった。だが大きな収穫もあった。
「アルチュール様! 子爵の遺体です、馬小屋で見つけました! アルチュール様!」
「そう大きな声を出さずとも聞こえている、して賊は見たのか?」
「背格好はよく解りましたが顔までは見えませんでした、申し訳ございません」
馬小屋には入らなくていいのにアーリャ・ミオナが絹のハンカチで鼻を押さえながら藁をかき分け入ってきた。
「このようにむさくるしい所にマキシムス様のご遺体を置かれるとは、許し難い行為。地獄に落ちるべきですわ」
「アーリャ殿、落ち着きたまえ、ここはご婦人が立ち入るところではない。ささ、こちらへ退出されるがよい」
アルチュール自らアーリャの白い手を取るとなだめすかしながら、馬小屋から丁重に連れ出した。
その間マキシムスの亡骸をセシルは見ていたが何か引っかかる点があった。
確かに容貌は生前のマキシムス・ボレスキン子爵そのものである。腰まである黒い髪を三つ編みにしており、絹のブラウスを着込み
しかし何かがおかしいのだ。
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