opening side xx
砂漠はほぼ無限の広がりを見せていた。
夕刻、王都「がらくたの都」を抜け出し貧民窟を出て鉄屑の山を掻き分けるとそこは砂漠だった。
もう何百年もの間にわたって広大な王都を出た者はごく少数であったし、まさかその茫漠たる砂漠の向こうに、貴族の荘園の田園地帯や、旗を掲げた騎士団領があるなどと、到底当事者以外の誰もが信用できなかった。
誰も信じない、知らないという事は「ない」と、いうのと同義だった。
つまるところ王都は砂漠に浮いており、難攻不落の陽炎じみた都市なのだと、砂漠を知るものは信じていた。まさにそれは事実なのだ。
少女は傾き始めた太陽を背に、チリチリと灼ける感覚を布越しに感じていた。
金の髪が汗で額に張り付いている。
どこからか奪ってきたぼろの肌がけは不潔でだれのとも知れぬ汗が染み付いていた。
その下は見世物小屋みせものごやの芸人の衣装を着ていた。
見世物小屋の芸人は最下層の
少女は流民の出であった。
奴隷以下の被差別民。
その1人が王都から逃れようと、生命なきものの王の国では何ら変化はなかった。
蟻が1匹這い出たようなものだった。
ただ少女には砂漠は王都よりは未来が見いだせる場所であったのかも知れない。
砂漠の向こうには「本当は何か王都の人間が忘れ去った真実があるのではないか」と? だが彼女の足跡は縺れて限界に達していた。
夕刻だというのに熱が容赦なく体力を奪い、ぼろの肌がけの下は容赦なく灼き尽くされ、彼女が歩を進めようにも既に限界を迎えていた。
太陽が地平線に溶け始める頃、少女は遂に砂に倒れた。砂は固くざらざらとして彼女を受け止める事すらしなかった。
ボロ布は風に舞い、見世物の衣装に身を包んだ金髪の少女は動かなくなった。
やがて星々と宵の明星が彼女を照らした。
まだ彼女には息があった。
嗚呼、この世に神がいるのならば、なんと憎いことか!
だが神はこの世界を見棄てて久しかった。
王都にも、砂漠にも、この世界のどこにも神は存在していなかった。
だから人々は偽りの神を作ったのだ。
縋るための神、憎むための神、それは人間の発明としての神である。その偽りの神々を巡り王都では日々諍いが絶えなかった。
少女はその争いも見ていた。
だからこそ姿を消した真の神への憤りは人一倍であった。
せめて神への恨み言を吐いてから死のう、少女はそう思い、金髪の隙間からぎらつく薄茶の眸を天へ向けた。
だがそれは砂漠の風の中虚しく掻き消え、少女も倒れ伏した。
そして動かなくなった。
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